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2002.4.1 The Board of Social Sciences 介護保険市場における住民参加型NPO
中川英子(宇都宮短期大学)
Non Profit Organization by Volunteer’s Participation in the Market on the Long-term Care Insurance -Case Studies of Organizations which Supply Day-service to Elder-
Hideko NAKAGAWA.(Utunomiya Junior College)
The purpose of this study is to investigate how Non Profit Organization which supplies day-service to elder in the market takes measures against Long-term care insurance. The main stress falls on difference between mission on N.P.O by volunteer’s participation and profit on business in the market of Long-term care insurance. The results are as follows: 1) Big-scaled day-service centers were forced to cut down labor cost and increase customers for balancing the expenditure with income . But mission of the N.P.O was not fulfilled. 2) Small-scaled mini day-service was able to balance the expenditure with income by supplying care-service to elder who is served by Long-life care insurance or not. Mission of the N.P.O by volunteer’s participation was fully fulfilled. 3) It is necessary that community dotted with mini day-service
Keyword: N.P.O.民間非営利組織、Market of Long-life care insurance介護保険市場 Mission使命、Profit営利、Efficiency効率、Day-service 通所介護、 Economy of scale規模の経済
介護保険市場における住民参加型NPO
中川英子(宇都宮短期大学)
要旨
介護保険実施前から、高齢者デイサービス施設の経営の厳しさとサービスの低下が予想されていた。しかし、介護保険実施後の住民参加型デイサービス施設経営についてみた研究は、介護保険スタートからまだ数ヶ月と日も浅いこともあり見あたらなかった。そこで本稿では、「使命」の成果達成を目的とする非営利組織(NPO)の住民参加型組織が、「効率」が求められる介護保険市場に参入することによってどのように対応しているのか、その「効率」化が及ぼすサービス利用者への影響とその「使命」の成果達成について、施設会計(2000年度施設会計予算と措置制度下の1999年度決算との比較)から検討した。 その結果、大規模なデイサービスセンターにおいては、収入面では利用者人数の増加で、支出面では人件費の抑制による「効率」化によって収支をあわせようとしていて、「顧客満足」は明らかに低下していた。しかもそのサービスのほとんどが介護保険事業としてのサービスで、個々のニーズに応じたサービスを提供するというNPOの「使命」の成果達成にはなっていなかった。一方、小規模なミニデイサービスを経営するNPOの場合は、利用者の半数を介護保険対象者にすることでむしろ収支は改善し、残り半数 は対象外の利用者にすることを可能にしていた。ここでは個別のニーズに応じた形でのデイサービスが実現していて、その「使命」の成果達成を果たしていた。 大規模なデイサービスセンターで介護保険対象者のみにサービスを供給する組織では、サービス生産にはなじまないとされる「効率」性の追求や「規模の経済性」を利用することにもなり、その本来的な「使命」をおろそかにせざるをえないものと考えられる。また、高齢者介護が「規模の経済性」が働きにくいサービス生産であるという点からも、このようなミニデイサービスを地域に点在する形でおこなっていくことが今後のNPOの方向性として考えられる。そのためには、利潤を目的としない住民参加型NPOに、現在介護保険の民間事業者には使用が許可されていない公共の空き施設利用を可能にすること、事業収益に対する税金の優遇措置が必要であることなどが考えられた。 以上
1. はじめに 今日、高齢者介護サービスの分野で住民参加型によるNPO(=非営利組織)の活躍がめざましい。この住民参加型NPOの特徴は、“公平・平等”を原理とする行政や“利潤の最大化”を目的とする企業では実現困難な高齢者のきめこまかな生活ニーズに対応することを「使命」としていることにある。一方、2000年4月、介護保険制度がスタートした。従来、「措置」により高齢者の介護サービスの選択や供給に全面的に関与していた政府は、介護サービスの向上を一つの大きな目的として、その部分を市場化[i]した。しかし、この市場は、完全競争の市場原理からいうと、同時決定されるはずの価格とサービス内容にズレが生じていて不完全な市場[ii]である。一方、介護保険の市場化によって政府の関わりが縮小した結果、介護保険によってもたらされた問題は、市場の介護保険サービスの供給側である企業や住民参加型NPOに集中することになった。その問題の一つは、既に企業の単独型通所介護施設(以下、デイサービスセンターという)への参入が極端に少ないことにあらわれている。これは利潤の最大化を目的とする企業が「効率」性を発揮しても、定められた介護費用で単独型施設を経営することは困難だと判断しているためだと考えられる。この点、住民参加型NPOが利潤を追求しないという点では、経営は企業よりは有利なはずである。しかし、住民参加型NPOには企業の目的である「利潤」の最大化にかわるものとして、「使命」の成果達成がある。この「使命」の成果達成を目的とするNPOが、「効率」性の求められる介護保険市場に参入することは、「効率」と「使命」との間に矛盾を生じさせるものと考えられる。延いては住民参加型NPOの存在を根源から揺るがすことにもなりかねないものと考えられる。 そこで、本稿では、介護保険市場に参入した住民参加型NPOに求められる「効率」化が、その「使命」の成果達成にもたらす影響について住民参加型NPOによるデイサービスセンターサービスの経営事例から検討し、介護保険制度下の住民参加型NPOの在り方について考察していきたい。
1. 先行研究 (1) 住民参加型NPOの特徴 従来から高齢者の福祉サービス分野では、営利を目的とする民間企業のほかに、非営利組織(NPO)である社会福祉法人によってもおこなわれてきてはいた。この社会福祉法人は、山岡(1999)がのべているように、幅広い概念をもつNPOの中に住民参加型NPOとともに含まれるものである。田中弥生(1999)がNPOの定義[iii]からのべているように、双方とも営利を目的とする企業とは明らかに異なることは確かである。しかし、従来の社会福祉法人の場合、措置委託費という「補助金」が主な収入源となっているため、行政の公平・平等の原理が働き、個別のサービスニーズには対応しにくいという点があった。それに対して、住民参加型NPOの場合、むしろ前述したようにこの“公平・平等”を原理とする行政では、実現が困難だと考えられる高齢者のきめこまかな生活ニーズに対応することが、組織の「使命」となっている。このことからしても、行政とは独立的でなくてはならない。この点が、従来の社会福祉法人と大きく異なっている。また、住民参加型NPOによる在宅福祉サービスの共通の特徴として、和田(1998)は@住民参加・住民主体、Aサービスの供給者と利用者が平等(会費、立場)、B利用者が対価を支払う、C個人や組織が金銭的な利益を追求しないの4つをあげている。ここでは特に@の住民参加・住民主体、つまり地域住民がデイサービスの主体としても、また客体としもかかわるという、他の任意団体や市民グループにない住民参加型NPOの特徴をみることができる。 (2)NPOにおける「使命」と評価基準 田中弥生(1999)はP.F.ドラッカー(1992・1995)がNPOに成果の判定基準がないため、活動の焦点を見失う危険性が高いとのべていることを指摘している。つまり企業であれば、その成果は原則的には利潤最大化に一致しているはずのサービス価格によって判定することができる。しかし、NPOの場合、利潤が目的ではないため、その成果が判定しにくいというものである。そしてドラッカーはこの企業の目的の代わりに「使命(ミッション)」という概念を用いている。この「使命」に基づいておこなわれるマネジメントによって、NPOは成果の達成を目指すことができるというものである。さらに、この「使命」が元々キリスト教の利他主義に基づいたものであるという。つまりNPOの「使命」の根底にはG.Sベッカー(1981)のいうような利他性[iv]の概念が含まれているものと考えられる。 一方、島田(1999)はフィリップ・コトラー(1982)の考え方をひいて、このNPOの「使命」達成のためには、マーケティングが必要であるとして、伝統的なマーケティングの考え方は、顧客のニーズを満たすこと、つまり「顧客満足」によって企業は利益を享受するというものであるとのべている。さらにNPOのマーケティングには、受益者に対する次元と経済的資源に対するという“対象の二重性”が存在するため、NPOの成功が資源を無償で提供するボランティアの満足によるのではなく、サービスの提供を受ける側の満足(「顧客満足」)によるものだとしている。 (3)介護保険制度下のサービスと個別ニーズ 田中(1998)は、NPOこそが公的福祉の限界[v]を克服できる要素をもっているとして、その活動が効率を優先せず住民のニーズにきめ細かく対応できる可能性があるとのべている。一方、介護保険サービスでは、厚生省(1998)が介護保険サービスは利用者の選択の幅が拡大するとしていたが、岸田(1998)は、それとは反対に公的福祉の限界から個別的ニーズに対応したサービスとはなりにくいことを指摘している。 (4)介護保険制度下の施設経営 介護保険実施後のデイサービスの施設経営が相当厳しいものになるであろうことは、既に多くの人々によって指摘されてきた。その中で岸田(前掲1998)[vi]は、1998年度事業費補助方式による委託費から試算、介護保険収入が従来の措置費の半分になると試算していた。拙稿(1998)でも[vii]、1998年時点で示されていた介護報酬仮単価から試算、同様の結果を得ている。そして、介護報酬の不足を補って赤字を出さない経営にするためには、かなり低い報酬の有償ボランティアに頼るか、独自事業からの収入を図るしかないこと、利用者人数を増加させる方法には施設のキャパシティや介護サービスの質の観点から限度があることなどをのべている。1999年12月、東京都M市[viii]でも市内のデイサービス事業は単独開設型施設の場合、収入がほぼ半減すると試算している。そして、各施設が今までと比べ約2倍の利用者を受け入れれば、現行の委託金額に近づくとしながらも、同じ人員配置で多くの利用者に対応するのでは、個別的ケアや事故防止といった観点から見て、サービスの質の低下が懸念されるとしている。 (5)サービス生産の経済的特徴 サービス生産の特色について井原(1990)は@労働生産性が低く、効率化がむつかしいこと、Aサービス供給者は小規模にならざるをえず、「規模の経済性」が利用しにくいことなどを指摘している。ここからは、デイサービスセンターでおこなわれる介護サービスについても、効率化がむずかしく、規模の経済性が利用しにくいことが考えられる。 以上の先行研究からは、住民参加型NPOの要件として行政とは独立的であること、住民参加・住民主体であること、サービスの供給者と利用者が平等(会費、立場)であることがあげられていた。一方、介護保険実施後の施設経営の厳しさとサービスの低下が予想される中で、介護保険市場に参入した住民参加型NPOがサービス生産にはなじまないとされる「効率」化や「規模の経済性」をはかった場合、「顧客満足」は低下し、その「使命」の成果達成が危ぶまれることが考えられる。しかし、介護保険実施以降、住民参加型NPOが施設経営の厳しさに、どのような「効率」化をはかって対応しようとしているのか、その「効率」化が及ぼすサービスの利用者(「顧客」)への影響、さらにその「使命」の成果達成についての調査・研究は介護保険スタートからまだ数ヶ月と日も浅いこともあり見あたらなかった。
3. 研究方法 住民参加型NPOのデイサービスセンターの介護保険への対応を具体化したものとして2000年度施設会計予算をとりあげ[ix]、措置制度下の1999年度決算と比較することを通じて、住民参加型NPOの「効率」化の実態を明らかにする。具体的にはデイサービスセンターを経営する住民参加型NPO3事例およびミニデイサービスを提供する住民参加型NPO1事例(参考事例)を対象として、デイサービスの状況(サービスの受け手と担い手の状況)および1999年度決算・2000年度予算について、施設責任者および組織責任者に面接聴取調査から明らかにする。
4.介護保険下における市場性 ここで介護保険下における市場性について確認しておきたい。市場原理では原則的には完全競争が条件である。しかし介護保険下では、表1のマトリックスに示したように限定的な市場になるものと考えられる。つまり市場における完全競争の条件とは、市場に@多数の人々が参加すること、A均一な財・サービスが存在すること、B情報が完全なこと、C参加、退出が自由なことの4つである。しかし介護保険市場ではCの市場への参加・退出が自由、つまりサービス提供事業者の参入は勿論のこと利用者もその選択は自由だが、@の多数の人の参加は介護保険の指定サービス事業者と介護保険の認定者のみの参加で限定的なものである。またAの均一なサービスでは、ケアプランは利用者によって異なるため均一なサービスというわけではない。Bの情報においても、例えばサービス提供施設の情報がすべて利用者に提供されているわけではなくそこには情報の非対称性が存在する。このように介護保険制度下の市場は、限定的な意味での市場ということになる。
5.結果:施設の概要と施設会計 事例TおよびVの施設がある東京都M市の高齢化率は12.3%で、東京のベッドタウンとしては、平均的な高齢化率である。事例Uのある神奈川県A市および参考事例Tがある神奈川県B市は事例TのM市よりも低く高齢化率はどちらも10.1%と、同じ東京のベッドタウンでも若い世代が多い市となっている。 表2は、事例の概要とデイサービスセンターおよびミニデイサービス事業1999年度決算と2000年度予算(収入と支出)、図1・図2は同じく1999年決算と2000年度予算のそれぞれの収入内訳を示したものである。 事例T、U、Vは介護保険制度実施以前には、B・E型にあたる(B型とはA型(重介護型)とC型(軽介護型)の中間施設、E型は痴呆性老人の毎日受け入れが可能な施設のことをいう)ただし介護保険制度では、この区分は特になく、施設の設備基準として食事および機能訓練を行う場所(兼用可)の合計面積が、利用者1人あたり3u以上が要件となっている[x]。 事例T・Uは住民によって建設されたものである。しかし、その建設設備費の元利償還金は地方公共団体や県社協などからの補助金(事例Tでは年間約5500万円、事例Uでは約860万円)で賄われている。事例VはM市が建設した施設で建設設備費の借入金はなく、いわば公設民営の施設である。一方、参考事例Tでは、公共施設や会員宅を無償で借りてミニデイサービスをおこなっているため、借入金は一切ない。事例T、U、Vの建設設備費はいずれも公的資金によるもので、この点では行政とは独立しているとは言いがたい。しかし、住民参加・住民主体であること、サービスの供給者と利用者が平等(会費、立場)であること、利用者が対価を支払うことにおいては、一応、住民参加型NPOの要件を満たしているため、ここでは住民参加型NPOとして入れることとした。その意味で完全な住民参加型NPOといえるのは、参考事例Tのみということなる。 事例Tでは、1999年度決算収入では、収入の約92%が補助金収入であった。しかし、2000年度予算収入は前年の約13%減で、介護保険事業収入はその約94%を占めている。この収入予算は、前年度利用者数と同じ30名では約6000万円の赤字が予想されたため、30名から80名に2.7倍増員し、人件費も一律前年度より5%カットして算出したものである[xi]。一方、デイサービスの現場では前年度の約2倍半以上の利用者に、前年度と変わらないスタッフ数で対応しなければならない状況で、利用者もスタッフもかなり混
乱しているという。さらに送迎バスも利用者の増員に対応して1台から3台増加した結果、送迎時間の延長などによってスタッフの負担もかなり増えたという。利用者1人あたり平均コストは8,427円で、前年度の27.2%に抑えられている。 事例Uでは、1999年度決算収入は、収入の約86%が補助金収入であった。しかし2000年度予算収入は前年の約40%減、うち介護保険事業収入は約90%を占めている。デイサービスの利用者数は前年度の10%減となっている。他方、ケアスタッフの総数は変えず、パートから常勤へ2名シフト、常勤を2人から4人に増員、常勤については、職務給と昇給なしの条件で全体の実質的な人件費を削減、前年度の約54%の人件費を設定している。この利用者数と人件費を前提条件として収支均衡させたのは、デイサービス事業のほかに訪問介護や独自事業(配食サービスやお出かけサービスなど)による収入が上積みされていることによる。ちなみにデイサービス以外の事業の収入が全収入に占める割合は約44%となっている[xii]。利用者1人あたり平均コストは10,905円、前年度の55%に抑えられている。 事例Vは2000年5月に開設したため、1999年度決算値として、同市にある旧制度では同じBE型の事例Tのデイサービスセンターの決算額の68.4%を施設規模から換算した。1999年度決算収入の参考値では、収入の約92%が補助金収入であった。しかし2000年度予算収入はその約35%減で、うち介護保険事業収入は約55%を占めている。この割合が低いのは、開設のための運営補助金収入(約3,900万円)があることによる。次年度からはこの収入がなくなるため、現在の2倍の利用者を2部式サービスにして確保しなければ収支が合わないとしている。なお、今年度の介護保険の利用者数は旧制度ではB型にあたるデイサービスに30名、E型に20名を見込んでいるが、この数字は前年度参考値の2倍にあたる。一方、支出全体に占める人件費は雇用条件により抑制し、採用にあたっては常勤スタッフ6人が一律年収270万円[xiii]、非常勤スタッフ34名が上限90万円[xiv](時給:ケアスタッフ750円、看護婦1,300円、事務員800円)の賃金を設定している。利用者1人あたり平均コストは8,667円、前年度の27.2%に抑えられている。
以上の結果からは、いずれの事例でも介護保険の利用者人数を大幅に増加させる一方で、人件費を削減し、利用者1人あたりの平均コストを抑えるという「効率」化によって、収支のバランスを図ろうとしていることが明らかであった。また、この3事例間では施設建物の総面積が大きいほど今年度の利用者一人あたりのコストは低くなっている。ここでは規模の経済が働きにくいとされる介護サービスに規模の経済が働いているが、その反面、デイサービス利用者1人あたりのケアスタッフ数や施設面積は少なくなっていて、利用者に対するサービスの低下が顕著にみられる。さらにデイサービスは、いずれも介護保険の認定者のみを対象にしたもので、対象外の人々の個別ニーズに応じたデイサービスを提供しているわけではない。これらのことが「顧客満足」につながりにくいことは言うまでもないことであろう。「効率」化をはかった結果は、本来の「使命」を達成しているとは言いがたい状態になっていることがわかる。 それに対して参考事例Tは、以上の3事例とは反対の結果を示している。この事例は神奈川県E市でミニデイサービスを提供して、既に3年の実績をもつ住民参加型NPOである。ここでは前年度、1日当たりの利用者が1.5人と小規模だったが、今年初めに特定非営利法人として法人格を取得してからは、市独自の介護保険指定サービス事業者として認められ、現在は介護保険対象者3名にサービスを提供している。そのほかここでは特に介護保険対象者外の利用者3名に、昨年と変わらない利用料1,000円でサービスを提供している。この利用料は介護保険料の一部負担金より若干高い程度で、破格に安い価格である。このサービス価格で採算がとれるとしているのは、3人の利用者の介護保険費用によって余剰がでたことが大きな要因となっている。また、市の施設や無償の会員宅でデイサービスをおこなうことによって、施設費部分がわずかな光熱費程度で済んでいることも大きな要因である。ここでは公共施設利用という間接的な形で税金は使われているものの、一方では無償で提供された会員宅を使うという組織「使命」の根底にある利他性が大きく働いていることがわかる。他のデイサービス施設が採算の悪化を訴える中で、むしろこのミニデイサービスでは利用者人数の増加に加えて、スタッフの時間当たり人件費も昨年より格段に上昇している。また利用者1人あたりコストも、4.900円と前年度72.2%に減少してはいるが、他の事例に比べて約半分のコストになっている。介護保険によって、この組織は経営の改善とともにその組織本来の「使命」、つまり利他性を働かせることによって、介護保険の対象とはならないけれど、確実にニーズのある住民の要望[xv]に対応することを達成していることになる。 6.考察 介護保険市場に参入したデイサービスセンターを経営する住民参加型NPOでは、収入面では利用者人数の増加で、支出面では人件費の抑制による「効率」化によって収支をあわせようとしていて、「顧客満足」は明らかに低下していた。しかもそのサービスのほとんどが介護保険事業としてのサービスで、個々のニーズに応じたサービスを提供するという住民参加型NPOの「使命」の成果達成にはなっていなかった。一方、ミニデイサービスを経営する住民参加型NPOの場合は、利用者の半数を介護保険対象者にすることでむしろ収支は改善し、残り半数は介護保険対象外の利用者にすることを可能にしていた。ここでは利用者のニーズに応じた形でデイサービスを提供していて、その「使命」の成果達成を果たしていた。市場の「効率」性にたよることなく、むしろ無償の会員宅の提供という利他性を利用してその「使命」の成果達成を可能にしたNPOの姿がある。 大規模なデイサービスセンターで、介護保険対象者のみにサービスを供給する組織では、サービス生産にはなじまないとされる「効率」性の追求や「規模の経済性」を利用することにもなり、その本来的な「使命」をおろそかにせざるをえないものと考えられる。また、高齢者介護が「規模の経済性」が働きにくいサービス生産であるという点からいっても、ミニデイサービスを地域に点在する形でおこなっていくことが、今後のNPOの方向性として考えられる。そのためには、利潤を目的としない住民参加型NPOに、現在介護保険の民間事業者には使用が許可されていない公共の空き施設利用を可能にすることや、現在認められていない事業収益に対する税金の優遇措置を従来の社会福祉法人のように認めることが、この種の住民参加型NPOにはぜひ必要だと考えられる。 以上 付記 本稿は介護保険実施直後の多忙な中、面接調査に快く引き受けていただいたデイサービス施設責任者の方々によるところが大である。ここで心からお礼を申し上げたい。 注 [i] サービスの選択については利用者に、供給については民間事業者の企業やNPOに委ねた。
[ii] 通常の市場取引であれば需要と供給の関係でサービス価格とサービス内容が同時決定され、消費者はその価格によってサービスをどれだけ購入するかを決定することになる。しかし介護保険サービスの場合は、介護保険費用として既に価格が決まっていて、利用者はその1割を負担し、残りは共助としての介護保険から支払われることになる。 ここでは、価格とサービス内容の決定にズレが生じている。 [iii] 田中弥生はNPOの定義として「その組織が自らの組織活動を通じてあげた利益を組織構成員の間で配分せず、利益獲得それ自体が組織目的でないような組織」とのべている。
[iv] ベッカーは、この利他性が家族の中にあることをのべている。
[v] 田中は公的福祉の限界として次の4つをあげている。@平等・公平性からくる限界、A対人サービスを苦手とする限界、B原則的には効率性が優先される限界、C画一性・硬直性による限界。
[vi] 岸田は介護保険制度を前提とした1998年の事業費補助方式の委託費が54%に半減すると試算している
[vii] 拙稿では1998年時点の介護保険仮単価から試算し、デイサービス事業の介護報酬では経費の5割程度しか賄えないことを示している。 [viii] M市が1999年12月に発表した「M市介護保険事業計画」
[ix] 本来であればこの施設会計については予算ではなく決算で検討するべきところである。しかし敢えて予算を採用したのはこの提言にはタイムリィなことが必要だと考えられたことによる(平成12年度の決算が公表されるのは翌13年6月以降のことで、これを発表できるのは平成14年以降となるものと考えられた)
[x]資料1:厚生省保険局、「高齢者保険福祉実務事典」、1729−1731、第一法規出版(1997) 資料2:平成11年3月31日交付厚生省令第37号「指定居宅サービスの事業などの人員、設備および運営に関する基準」
[xi] ただしデイサービス事業に付随した入浴サービスについては介護費用の単価が安く採算ベースにのらないため、この時点では考慮していないという。
[xii] ただし、調査時点では予算より多い40〜47人前後の利用者(利用定員は55人)が既にあり、実際の収入は予算を上回ることが予想されている。
[xiii] この条件で採用された常勤スタッフには30代男性も含まれているが、この賃金は総務庁「家計調査年報」における35〜39歳の住宅ローン返済世帯の平均年収約760万円からすると、その4割程度の金額となっている。
[xiv] パートのケアスタッフ全員がホームヘルパー2級の資格を有しながら、専業主婦として扶養家族と認められる賃金で働いている。
[xv] 例えば痴呆性老人の場合、大規模な施設よりも、この事例のような小規模なミニデイサービスを好むというようなニーズがあるという。
引用文献
P.F.ドラッカー著、上田惇生、田代正美訳 「非営利組織の経営」ダイヤモンド社、(1992) P.F.ドラッカー編著、田中弥生訳 「非営利組織の自己評価手法」ダイヤモンド社 (1995) 田中弥生「NPOの幻想と現実」p86-102同友館、(1999) 山岡義典「NPO基礎講座」p5〜9、ぎょうせい、 (1999) 武田宏「高齢者福祉の財政課題」p4, あけび書房、(1995) 和田敏明:山岡義典編著「NPO基礎講座」p47、 ぎょうせい、(1998) G. S. Becher 「A Treatise on the Family」 Harvard University Press, 1981 Kotler.P.、Marketing for Nonprofit Organization、2nd Ed.,Prentice Hall ,1982 コトラー「非営利組織のマーケイング」 井関敏明監修、東京創元社、(1961) 島田恒「非営利組織のマネジメント」p101-109、 東洋経済新報社、東京(1999) 田中尚輝「ボランティアの時代」岩波書店、(1998) 厚生省老人保険福祉局・介護保険制度施行準備室「平成10年介護保険の手引き」p14-15、ぎょうせい、(1998) 岸田孝史「措置制度と介護保険」p105・p94-p95、萌文社、(1998) 中川英子「介護保険制度における施設経営」、『介護福祉学』、5-1、p39-51(1998)
(『家庭経済学研究』2001年6月No.14 pp.32−39掲載) Copyright 2002 Nakagawa |
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