研究テ−マ

『我が国における外国人労働者問題とその対応についての考察』


氏名    川崎  正

所属専攻    社会と経済

 

報告書概要

我が国では、1986年11月以降の景気上昇過程において特定分野,特定

業種の人手不足が顕在化するとともに外国人労働者の不法就労という問

題が生じてきた。

筆者は、これらの問題の発生要因及び現在は不法とされる単純労働者

の受入についての方向性を得ることを目的として考察を進めた結果、

現段階においては安易な条件付受入は回避しなければならないこと,更

には長期的な視点にたった外国人労働者(単純労働者)への対応方針を

国民のコンセンサスを得ながら策定する必要があることを確認したので

ある。

 

目次

 

はじめに1 〜2

第1章外国人労働者問題の発生とその要因について3 〜4

第1節我が国の経済・産業構造の変化と近年の労働需給状況4 〜13

第2節国際労働力移動とそれを促す諸条件14 〜17

第3節アジア諸国にみる国際労働力移動17 〜19

第2章我が国における外国人労働者の状況19

第1節外国人労働者の受入状況19 〜21

第2節外国人の不法就労状況21 〜22

第3節外国人労働者の就労等の実態23

第3章外国人労働者問題に関する国民の意識23

第1節外国人労働者問題への関心23 〜24

第2節不法就労について24 〜25

第3節単純労働者の入国・就職25 〜28

第4節まとめ28 〜29

第4章外国人労働者受入についての賛否両論30

第1節肯定論(受入論)と否定論(鎖国論)について30 〜32

第2節改正入管法と政府の方針32 〜35

第3節論議結果と方向性35 〜36

第5章欧米諸国における外国人労働者の導入と現状36

第1節欧米諸国の対応状況36 〜37

第2節西欧における国際労働力移動についての一般認識38

第3節西ドイツにおける外国人労働者導入とその後の対応39 〜40

第4節まとめ40 〜41

第6章結論(今後のあるべき方向性について)41 〜46

おわりに47

  • 引用文献リスト
  • 別表索引
  • 参考文献リスト

 

 

はじめに

労働力の国際移動については、正統派経済学(いわゆる近代経済学)

の国際経済理論は専ら労働の不可動性を前提としてきた。一方、現在の

世界ではカネ,モノの移動と同様に労働力も国境を超えて移動しており

今日の労働移動の特徴としては、交通,通信手段の発達で需給は同時的

決定と言えるほどになっている。アジアは、かなり以前から労働力の国

際間移動が活発に行われている地域であるが、これまで日本の労働市場

はそうした移動の埒外にあった。

しかしながら、1985年9月のプラザ合意に端を発した円高の進行

過程で日本とアジア諸国との所得格差が顕著に拡大したため、日本は

アジア諸国の人々にとって非常に魅力ある労働市場になったのである。

又、我国では円高不況を乗り越え「内需主導型」の経済成長を通じて

必要とされる経済構造の転換をはかるという経済構造調整の定着が今日

の好況をもたらし、国内は労務情勢が繁忙を極めつつあった。

このようなアジア諸国から日本への労働移動圧力の高まりと,受入国

である日本の産業・経済構造の変化、労働力需給のミスマッチ等による

特定業種,特定分野の人手不足が、我が国の労働市場を国際的労働移動

の対象市場へと姿を変えさせていく大きな要因となり,その結果、

近年においては就労を目的とした外国人労働者の入国が急激に増加し,

不法就労,悪質ブロ−カ−の暗躍,人権を無視した外国人労働者の雇用

等の社会問題が発生したのである。この問題については、1987年頃

から単純労働に従事する外国人労働者に対して門戸を開放するか否かの

「鎖国・開国」論争が繰り広げられ、論点は入国管理,労働経済,労働

者保護,人権擁護,人種差別さらに国際的責任など多岐にわたったが、

外国人労働者の就労経路や就労実態など不法就労と「生活」の実態全般

が充分に解明されていなかったこと,及び関係分野が広範囲であること

などの事由によって開国派、鎖国派ともお互いに説得力ある論拠を提起

しえない面があった。

これらの論争の一つの区切りが、平成元年(1989年)3月28日

の閣議にて決定され平成元年(1989年)12月8日の第116国会

で成立、平成2年(1990年)6月1日施行された『出入国管理及び

難民認定法の一部を改正する法律』(以下改正入管法)である。

しかしながら、改正作業を行った法務省入国管理局においても単純労

働に従事する外国人労働者の取扱(現在は入国不可)については引続き

慎重に検討する必要があることを指摘しており,更なる検討・論議がな

されなければならない分野であると考える。

筆者は、

(1)我国における外国人労働者問題の発生とその要因

(2)我国における外国人労働者の状況

(3)外国人労働者問題に係わる世論調査結果

などについてふれながら、継続検討が必要とされる単純労働に従事する

外国人労働者の取扱いについて,その方向性を考察することにする。

尚、「単純労働」という言葉については,必ずしも明確な定義が成さ

れていない。本論では、『不熟練,非専門技術の労働』*1つまり『特定

の技術,技能や知識を必要としない労働』と定義して考察を進める。

第1章外国人労働者問題の発生とその要因について

我国における外国人労働者問題の発生は、我が国の労働市場に国

際的な労働力移動が生じた結果に他ならない。一般に資本主義世界

経済の形成と展開の過程においては、労働力の国際的移動を伴うこ

とが指摘されているが、*21960年代の高度経済成長時代の日本では

何故このような国際労働力移動が具現化せず今日に至ったのであろ

うか?

戦後におけるアメリカ,ヨ−ロッパの高度経済成長時においては、

移民,あるいは外国人労働者がそれぞれの国の経済発展に少なから

ず貢献をしてきた。*3このような結果については、西ドイツにおけ

る外国人労働力が同国の経済成長に深く関係していたことを示す統

計資料(別表−1)をみても明らかである。

(尚、これらの先進諸国では、その後,エスニック・マイノリティ

の新たな形成と人種差別主義の台頭という社会問題が発生した点を

見逃せない。)

一方、日本においてはそれらの外国人労働力に頼らず奇蹟的な戦

後復興と高度経済成長をなし遂げたことは歴史的な事実である。

日本のそれと諸外国が異なる点は,高度成長過程で必要とされる労

働力供給が農村から都市への膨大な人口流出によって行われたこと

によるものである。

(尚、上述したエスニック・マイノリティの形成や人種差別主義の

台頭が日本では全く発生しなかったかと言うと,程度の差こそあれ

発生したわけであり、この点は在日朝鮮・韓国人の存在および今ま

での経過から観ても論を待たないのである。)

しかるに、1980年代の中頃から我が国における外国人労働者の問

題が発生したのは、世界経済の中での日本の位置の変化,我が国の

経済・産業構造の変化,更には周辺環境が上記した国際的労働移動

を起こさせる諸条件を満足させ引きつける状況になったこと,及び

1960年代における高度経済成長を支えた農村部からの労働力供給が,

円滑に行われにくくなった我が国労働市場の変化に起因すると考え

るのである。

このようなことから、我国における外国人労働者問題の発生要因

を受入国である「我が国の経済・産業の構造変化と近年の労働需給

状況」という観点,送出国側の観点として「国際労働力移動とそれ

を促す諸条件」,更には「アジア諸国にみる国際労働力移動」とい

う観点から分析を試みる。

第1節我が国の経済・産業構造の変化と近年の労働需給状況

現在の景気拡大は、1986年11月に始まり現時点では景気

減速感も広まってきているとは言え,企業の好況感は依然として

続いており(1991年9月7日付日本経済新聞)戦後最大の大

型景気といわれる「いざなぎ景気」(1965年10月〜197

0年7月)の57ケ月と比肩しうる大型景気となっている。

雇用の動向は、こうした景気の動きと密接に関係するが今日の人

手不足状況をうみだした事由の説明としては充分でないことから、

我国の経済構造や産業構造の変化,あるいは企業行動の変化とい

う構造的要因及び景気拡大下の労働需給状況についてふれ、人手

不足と外国人労働者流入の関係について述べることにしたい。

1.我が国の経済・産業の構造転換

1980年代に我が国の経済・産業・社会はその構造を大きく転換

し始めた。これらの変化はそれぞれ密接な関連を持ちながら進行

しているのであるが、あえて時系列的な動きの中で捉えてみると,

最初に製造業の国際競争力が日本を世界の経済大国に押し上げた

こと,次に経済のサ−ビス化という国内経済構造の変化,最後に

国内の地域構造の変化,つまり3極構造の出現ということに分類

でき*4以下具体的内容について述べることにする。

第1は、『世界経済の中での日本の位置の変化』である。現在

に至る約10年間の顕著な変化は日本が「経済大国」となり世界

経済の中で日本の位置が変化したことにある。「経済大国」への

原動力は製造業の国際競争力であり良質な製品を輸出することに

より貿易黒字を累積的に拡大し、資本輸出を活発化させ日本を世

界の債権国に押し上げたのである。しかしながら、「輸出依存」

の経済運営は世界各国との貿易摩擦を引起し対外不均衡を是正す

るために「内需主導型」の経済運営に転換することが政策目標と

とされた。経済企画庁編「世界とともに生きる日本−経済運営

5ケ年計画」(1988年)では、我国の経済社会が解決すべき

当面の課題として,1.大幅な対外不均衡を是正し世界に貢献して

いくこと2.豊かさを実感できる多様な国民生活を実現すること

3.産業構造調整を円滑に進め、地域経済社会の均衡ある発展をは

かることの3点をあげ,これらの課題は「内需主導型経済構造」

への転換・定着によって同時に達成されるとしている。

これらの内、大幅な対外不均衡の是正及び内需主導型の経済成

長などについては目論見を達したかにみえるが、第2次産業から

第3次産業への産業構造の転換が進むなかにおいて特定業種(所

謂3Kなど),特定分野の人手不足が顕在化するとか,円滑な産

業構造調整が出来ない中小・零細企業があるとか,均衡ある発展

に取り残される地域経済社会が出現したりして歪みも生じている。

こうした歪みの一断面が,外国人労働者の不法就労という社会問

題として現れてきているのである。外国人労働者の不法就労につ

いては、労働省から委託され『外国人労働者が労働面等に及ぼす

影響等に関する研究会』が関東地区1都5県の中小企業348社

に対して実施した調査結果(以下『研究会調査結果』)にその実

態を見ることができる。(別表−2参照)

この『研究会調査結果』による就労者の在留資格をみると、短期

滞在者を雇用している企業が20%,雇い入れた外国人の在留資格

が不明の企業が27%あるほか留学生,就学生を雇用している企業

が30%みられるのである。次に就職職種は、生産工程作業員63%,

土木・建設作業員15%,荷卸し積卸し等が5%,ウエ-タ-,ウエ-トレスが4%等

単純労働の職種が大半を占めており、この調査結果からも我が国

における外国人労働者の不法就労が明らかなのである。

第2点目は、『国内経済構造の変化』である。国民の所得水準

が上昇し経済のサ−ビス化が進展し、又国民の価値観が多様化し

てきたこと及び「産業の情報化」と「情報の産業化」の動きが進

行したため,社会経済のあらゆる分野で情報化が進み従来の生産

方式である、

生産者主導=大量生産・大量販売の生産形態が後退し

顧客主導=顧客のニ−ズを満たす生産方式に移行

せざるをえなくなったのである。このような変化によって個々の

財、サ−ビスに体現される情報の量は飛躍的に増大し情報の質が

向上,従来の重厚長大型・低付加価値型の産業の多くは、先端技

術分野や高付加価値を志向せざるを得なくなり技術の複合化や産

業の融合化という現象が進展したのである。次にこれら経済構造

の変化は、財,サ−ビスにいかに多くの情報を盛り込めるかとい

うことであり,日本産業全体がハイテク化し技術開発力が重視さ

れることにつながり、企業や組織は、外部の資源を情報ネット

ワ−クによって活用せざるを得ず企業,組織,人の結合形態が多

様化し企業,組織,地域は世界的規模で展開する分業体制への適

用が求められるに至ったことである。

しかしながら、日本の産業の二重構造をなす製造業における部

品メ−カ−,建設業(多層下請け構造)における末端下請け等の

一部においては、これらの経済構造の変化についていけずに従来

同様の対応を続けざるを得なくなり,人材の確保が困難になると

か、多様化に対応出来ないとかの問題が生じてきており,これら

の状況が外国人労働者問題を提起させる一因となったものと考え

るのである。

第3点目は、『国内の地域構造の変化』である。1985年以

降の円高不況の下で企業は合理化を徹底するとともに,大企業が

企業内分業,地域間分業を徹底化しその管理中枢部門を東京の

都心に集中させ,大都市圏の大規模工場を量産型工場から研究試

作工場へと特化させていったため,「東京圏」は研究開発機能の

一大集積地となり量産型工場は、「地方圏」に配置されることに

なった。一方、「周辺国」の工業化も開始され先進国の直接投資

などによって量産型工場が「周辺国」に立地するに及び「地方圏」

と「周辺国」で工場誘致の競合状況が生み出された。つまり、

交通・通信手段の発達及び生産工程の技術革新による労働の細分

化・単純化とともに,資本の新たな世界的展開が製造業を含む産

業のあらゆる分野において生産過程の一部の第3世界への移転を

促し,第3世界諸国(例えばNIEs諸国)において国際競争力

を有する製造業生産を可能にしたのである。このような3極構造

の出現により「地方圏」は極めて厳しい現実になっており、工場

を立地させている最大要因が地域の相対的低賃金や工場用地,工

場用水の確保のし易さにある場合は、地域の人材を含めた資源が

地域内で循環せず良質な雇用の機会の創造にもつながらない状況

を呈するに至り,結果として地域的な労働力需給のミスマッチを

うむ要因となったのである。

2.近年の労働力需給の状況

円高不況から脱した日本経済は、1986年11月以降景気拡大を

続けており,雇用の動向もこうした景気の動きを反映して人手不

足が深刻化してきている。日銀短観の企業アンケ−ト結果によれ

ば、今回の景気拡大期において「人手不足」が「人手過剰」とい

う答えを上回ったのは1987年10−12期であり,その状態が今日ま

で続いているのを見てもあきらかである。又、このような労働力

の需給状況が逼迫している現状は、次の指標(平成2年度経済白

書)からも読み取ることができる。

最初に労働力需要であるが、景気上昇局面がいきながく続き且

つ、内需主導で雇用吸収力が大きいため労働力需要は拡大してお

り,特徴的なのは就業者の増加が他の安定成長期の景気上昇局面

に比べて著しく大幅なものになっている点と,所定内労働時間の

減少幅がやや大きい点にある。

総実労働時間所定内労働時間所定外労働時間

87年度対前年比6.8%増

88年度〃0.7%減1.3%減5.6%増

89年度〃1.0%減1.0%減0.6%増

*88年度の所定内労働時間の減少は,労基法改正(88.4)及び

金融機関の週休5日制への移行によるもの。

就業者数男子女子

87年度対前年比1.3%増0.9%増1.9%増

88年度〃1.7%増1.5%増2.0%増

89年度〃2.1%増1.5%増3.1%増

*就業者数は、88年度に徐々に伸びが高まり,89年度には

大幅に増加している。

雇用者数

87年度対前年比1.6%増

88年度〃2.7%増

89年度〃3.0%増

総実労働時間数は対前年比で減少しているが,就業者数及び雇用

者数とも増加しており労働需要は拡大しているのである。

第2は労働供給の動向である。労働供給は、雇用状勢が改善す

る中で労働力需要同様拡大している。これは、景気循環を通じて

変化する女子の労働力供給行動(パ−トタイム等)によるところ

が大きく,女子労働力の上昇事由としては、

  • 就労意欲の高まり
  • 雇用情勢が大きく改善しパ−トタイム労働者に対する需要が

増加したこと

  • 男女雇用機会均等法施行による女子労働力の活用を図る企業

の増加

がある。白書によれば女子の就業環境等が整備されれば女子労働

力率は更に高まる可能性があると指摘している。

又、労働力人口の増加は以下の通りであり女子の増加率が高い。

男子−−−毎年30〜40万人の増加でほぼ一定

女子−−−円高不況期20万人程度

87年度42万人増

88年度43万人増

89年度68万人増

第3は労働力需給状況である。労働力需要の拡大,特に雇用者

数の増加テンポの高まりに応じて求人数は大幅な増加を続けてき

たが,雇用者数の増加テンポが高い水準で安定するにつれ伸びは

緩やかになってきている。

新規求人数有効求人数

87年度対前年比23.3%増19.0%増

88年度〃23.6%増25.3%増

89年度〃7.7%増9.5%増

求職者数有効求職者数

87年度対前年比6.2%減4.0%減

88年度〃8.9%減11.4%減

89年度〃9.2%減9.1%減

新規求人倍率有効求人倍率

87年度1.2倍

88年度1.63 倍1.0 倍

89年度1.93 倍1.3 倍

新規求人数及び有効求人数とも89年度は伸びを低下させたが引続

き増加、求職者数及び有効求職者数は減少が続いており,労働力

需給は引き締まっている。又、89年度の年度平均有効求人倍率は

1.3 倍と1973年度に次ぐ高い水準であり人手不足感が非常に高く

なっていると言えよう。(有効求人倍率は、その後も上昇し90年

6 月に1.4倍台を具現化した後,91年8 月に1.37倍に低下するま

で1.4倍台の高水準にあった。)

第4は労働力需給のミスマッチの状況である。円高不況期は、

労働力需給の緩和基調に加え輸出産業に依存する度合いの高い

地域が特に雇用状況が悪化したことからミスマッチが拡大した。

近年では、失業率が減少する一方,欠員率が上昇するというマク

ロの失業率と欠員率の動きからみてミスマッチの状況にはあまり

変化がないという言い方も出来るが、一試算として地域別,年齢

階層別,職種別というセミ・マクロレベルでの求人,求職のバラ

ツキ具合でミスマッチをとらえてみると、内需主導の景気上昇が

ミスマッチの全般的な改善にある程度寄与しているが、労働力需

給の引き締まりの結果,一部職種・地域では、逆にミスマッチの

拡大も指摘出来るのである。

  • 地域別−−−

地域間の景気格差が縮小するなかで僅かに改善が見られ

たものの労働需給の引き締まりから地域間ミスマッチが

拡大する動きがみられる。

  • 年齢階層別−−−

高年齢層では有効求人倍率が1.0 を大きく下回る。

全体1.39倍(89年10月)

19才以下3.62倍

30〜34才2.46倍60〜64才0.21倍

35〜39才2.24倍55〜59才0.44倍

40〜44才1.95倍65才以上0.57倍

(労働省調べ)*5

  • 職種別−−−−

全般的な労働力需給の引き締まりのなかで、保安,技能労

働,運輸通信など一部職種の求人数が求職者数に比べて著

しく増加し職種間のミスマッチが拡大している。

上記の通り労働力需給のミスマッチは、年齢階層別,職種別で拡

大しており人手不足感をもたらす大きな要因となっている。

最後に人手不足の状況については、労働力需給の引き締まりの

結果,中小企業を中心に人手不足感が出てきている。製造業では、

輸送機械,一般機械,鉄鋼など非製造業では、建設業,サ−ビス

業,小売業で人手不足感が高い。又、労働省の労働経済動向調査

(90年2 月)によれば職種別の人手不足感が高い職種は、

1.サ−ビス業の専門・技術職,サ−ビス職、2.卸売,小売業、

3.飲食店の販売職、4.製造業の技能工,単純工(87年から急速

に高まる)であり,このような人手不足は企業経営に大きな影響

を与えており小規模の製造業を中心に既存事業の維持運営が難し

くなっているところも見られるのである。

このような労働需給状況に対応するため各企業は、省力化投資

(OA,FAなどでの代替)及び増力化投資(人間でしか対応で

きない分野で新しい労働力を得る。)などの投資を行った。*6

これらの投資は景気拡大の一要因ともなっているが、省力化ある

いは増力化投資も出来ない中小,零細企業の人手不足は非常に厳

しい状況になり,この結果としての労務倒産の発生,若しくは外

国人労働者(不法就労)の雇用ということでの対応をはかったこ

とから,我国において外国人労働者(不法就労)が近年,急速に

増加た原因となったのである。前述した『研究会調査結果』によ

れば、外国人雇用の理由としては,日本人が来ないことをあげる

企業が76%等となっており人手不足の対応措置としての外国人労

働者(不法就労)の雇用があきらかなのである。

これらの状況に対し白書では、1.労働力需給に応じた地域間,

産業間,職種間の労働移動が円滑に進むよう労働力の移動性を高

める。2.不足している職業能力を開発向上する。3.高年齢層

や女子の能力発揮のための環境条件の整備をはかるとともに,労

働力確保が困難となっている分野においては、生産性の向上と労

働条件の向上による魅力ある職場環境作りや,地域間において均

衡のとれた形での雇用機会の確保を図るという政策を講じる必要

があることを指摘している。しかしながら昨今の労働市場は、

フリ−アルバイタ−が増えるとか,転職が増加するとか流動化し

ているものの,これらの動きは若年層に特化しており,行政が期

待する全年令層における労働移動性の高まりには暫し時間がかか

ると思われる。

第2節国際労働力移動とそれを促す諸条件

国際労働力移動の理論としては、需給要因の何れかを重視する

プッシュ・プル理論,移動量と距離を勘案した重心理論などいく

つかの理論が提示されているが、森田桐郎編『国際労働力移動』

による、国際労働力移動は「資本主義の世界的発展に対応する労

働供給システムの一形態」*7として捉えられており,今日の国際

労働力移動は1950年代〜1960年代の高度成長期のそれとは質的に

異なる*8ものとしている。今日の国際労働力移動の質については

後述するとして、国際的労働移動を促す客観的条件*9を分析する

ことにしたい。

これらの条件としては、各国間の所得格差が主要な要因となる

ほか,人口動態の格差と労働需給の不一致,さらには労働移動を

促進する制度的な仕組みがあり以下具体的に述べることにする。

最初に各国間の経済発展とくに所得水準の格差であるが、主要先

進国及び開発途上国の一人当たり国民所得は、別表−3の通りで

ある。これによれば1988年のバングラデシュの一人当たり国

民所得は日本の0.8%,パキスタン,フィリピンはそれぞれ1.7%,

3.0%となっており所得水準の格差は極めて大きく,これらの格差

が労働力移動を促す主要な条件である。又、受入国での賃金が本

来低賃金であるにも拘わらず当該外国人労働者の労働力再生費と

送出国(出身国)における残存家族の生計維持(さらには貯蓄)

とを可能にしていることによって相対的に高所得と映る(メイヤ

ス−理論の援用*10)ことも労働力移動を促す要因となっている。

次には、各国間の人口動態の著しい格差と労働力の需給不一致

である。これは主に送出国側での要因であるが,農村から都市へ

の人口移動,都市における失業・半失業者の堆積,統制不可能な

スラムの膨張,それがもたらす資本主義部門への賃金の圧力,賃

金稼得機会そのももの相対的欠如という状況が中心資本主義国へ

の労働力移動を促す条件*11 となるのである。

最後に国際間の労働力移動を促進する制度的仕組み*12 であり、

具体的には、1.政府機関等による直接的な斡旋(1970年代にアジ

ア諸国から中東産油国への労働力送出し方式として韓国,パキスタ

ン等で実施された),2.政府機関の許可や監督を受けた民間業者

による斡旋,3.送出国・受入国の共同の機関による斡旋(1960

年代に二国間協定により西ドイツとトルコ,ユ−ゴスラビア等の

間で実施された)等がある。又、フィリピン政府が1982年労働省

に海外雇用庁(POEA)を設けるとともに主要なフィリピン労働者受

入国に担当者をおいて系統的、組織的な海外出稼ぎ政策をとって

いることも労働力移動を促進する制度的仕組みである。

次に労働者個人の判断条件であるが手塚和彰著『労働力移動の

時代』*13 によれば、対象者が熟練労働者(この場合、教育,訓

練という人的資源投資がなされている人と定義する。)と不熟練

労働者(教育,訓練について最小限の人的資源投資をうけず,

ある職種に必要な技術もキャリアもない労働者とする)では、そ

の要因に隔たりがあるとしている。熟練労働者の場合、なんとい

っても大きいのは所得格差が比較されることであるが,移住(移

動)決断の引金とはならない。これは、教育,職業訓練,キャリ

アという人的資源を既に投入されており自らの投資に見合うだけ

の所得を得て生活することが可能であり,且つ自分のキャリアに

満足できる限りにおいては要因とはならず,逆に仕事のやりがい,

キャリア,社会的位置が重要な意味をもってくる。一方、不熟練

労働者の場合は,所得による比較優位原則がストレ−トに働く。

この場合、決定的に影響を与えるのは統計的な比較のための数値

よりも結果がヴィジュアル(例えば出稼者が持ちかえるオ−デ

ィオ,ビデオなどの高価な電気製品)で実現(例えば所得移転に

よる豪邸や店舗)が容易であるかということが問題になるとして

いる。

それでは、我が国における不法就労の外国人労働者は、上述し

た不熟練労働者ということであろうか?『研究会調査結果』によ

れば,調査対象の外国人労働者の76%は中等教育卒業以上の学

歴を持っており彼らの学歴が高いとしている。この結果を単純に

受け止めれば,ある程度の人的資源投資がなされている外国人労

働者が我が国で不法に就労しているのである。これは、人的資源

投資の有無という観点でない要因が作用していることを意味し,

具体的には、言葉の問題,日本で求められる技術レベルの問題な

どから正規の入国査証での就労が困難となる一方,我が国の労働

市場における特定分野,特定業種の人手不足(前述の問題がとり

たてて業務遂行上の阻害要因となりにくい業種)に対応(需要を

満たす)する形で入国(合法か否かを問わない動き)し就労して

いるものと捉えられるのである。従って、国際的な労働力移動を

生じさせる要因としては,上述した客観的条件の他に,国際的な

労働力需給関係が極めて大きな要因となると考えられるのである。

これらのことから、1985年9月のプラザ合意に端を発した

円高の進行過程で顕著に拡大した我が国とアジア諸国の所得格差

と我が国における近年の労働力需要の発生が国際労働力移動を生

じさせ,結果として今日の外国人労働者問題を発生させたものと

捉えるのである。

第3節アジア諸国にみる国際労働力移動

国際的な労働力移動を促す要因は第2節にて述べた通りである。

これらの要因に基づく労働力移動を第2次世界大戦後におけるア

ジア諸国からの出稼労働者流出の構造の中にみることができる。

第1段階は主として旧植民地国から宗主国へ向かうものであり

南アジアからイギリスへの流れやフィリピンからアメリカへの流

れである。次に第2段階は、石油ショック後,オイルマネ−の流

入により建設ブ−ムを迎えた中東諸国への出稼労働の流れである。

この時期は、国策としての労働力輸出政策がアジア諸国で確立し

た時期であったと見做すことが出来よう。なぜならば、各国とも

労働力輸出が失業,潜在失業人口の圧力軽減と本国送金による国

際収支の改善に役立つことを発見したからである。今日に至る

第3段階は、1980年代半ばから中東産油国が一斉に労働の自

国民化を進めだすとともに,石油ブ−ムの消滅により建設需要が

激減したことから、中東諸国がもはや出稼ぎ先としての意味を喪

失しはじめた段階がこれに属している。しかしながら、中東地域

は建設ブ−ムに代わり保全やサ−ビス及びメイドなどの需要が高

まっている為,アジアからの労働力送出は規模が縮小されたとは

言え,依然として存続しているがアジア諸国は中東地域に代わる

別の労働力輸出先を開発しており,円高不況をのりこえ内需主導

型の経済成長を進めていた日本が有力な対象として注目されたの

である。*14 これらの状況は、我が国で就労している外国人労働

者の国籍がハ゛ンク゛ラテ゛ッシュ18%,ハ゜キスタン16%,中国16%,フィリヒ゜ン11%,

フ゛ラシ゛ル7%などアジア諸国が主なる出身国となっているとした『研

究会調査結果』からみてもあきらかなのである。

近年,アジアを含む開発途上国はGATT(ウルグアイラウンド)

の協議の場において,サ−ビス貿易に伴う労働力移動に関する議

論のなかで先進工業国の労働市場の開放を強く要求**1 しており,

現実に幾つかの開発途上国の政府にあっては、自国の労働者の国

外での就労を奨励し,稼得した賃金の大きな割合を本国に送金す

ることを求めている。このように開発途上国が「労働力の輸出」

を通じて外貨の獲得を図ろうとする背景としては,これら諸国の

多くが対外累積債務を抱え困難な状況にあることがあげられる。*15

「労働力の輸出」は、短期的には失業や不完全就業の緩和,本国

送金による国際収支の改善といった効果をもたらす場合があるこ

とは、パキスタン,バングラデッシュ等について既に指摘されて

いる通りであり,各国別の送金額実績は別表−4の通りである。

(1988年にはバングラデッシュにおいて,国外就労労働者の本国

送金額は輸出額の約5 割、パキスタンにおいては約4 割に相当す

る額に達している。)

このようなことから、パキスタン,インドネシアでは経済開発

計画の中で、出稼ぎ労働者の本国送金の目標額を設定していると

か、フィリピンにおいても、国内で十分な雇用が創出できるよう

になるまでの間、海外における雇用機会の確保を図っていくとい

う方針が決められており*16,アジアにおける中心資本主義国であ

る日本の周辺国であるこれらの国からの日本に対する労働者の

送出圧力は,今後ますます強まることが予想されるのである。

**1 ウルグアイラウンドの新協定に労働移動の自由化推進が盛り

込まれるとの報道がある。(1991年11月5日付日本経済新聞)

第2章我が国における外国人労働者の状況

外国人労働者の受入れに関する我が国の方針は、第6次雇用対策

基本計画(昭和63年6月17日閣議決定)更には、改正入管法に

も示されている通り専門的・技術的能力を有する外国人の受入れに

ついては積極的に受入れを認めているが,いわゆる「単純労働者」

については入国を認めず、その取扱いについては十分慎重に対応す

るとしている。近年における国際化の進展等を背景として我が国に

新規に入国する外国人は就労者を含め増加傾向にあるが、以下新規

入国者数の推移,外国人の不法就労状況等について説明を加える。

第1節外国人労働者の受入れ状況

昭和60年以降の年度別新規入国外国人の推移は,増加傾向にあ

り平成2年においては2,927千人に達している。これらの新規入国

外国人の在留資格別内訳は以下の通りである。*17

(資料出所:法務省入国管理局)単位:人

|新規|**2 |留学・||

|入国者数|就労目的|就学|研修|

1985年|1,987,905|43,994 |13,739 |13,987 |

1986年|1,710,450|54,736 |18,056 |14,388 |

1987年|1,787,074|69,183 |19,727 |17,081 |

1988年|1,960,320|81,407 |41,542 |23,432 |

1989年|2,455,776|71,978 |25,960 |29,489 |

1990年|2,927,578|91,298 |30,379 |37,566 |

|||||

**在留資格で定める教授,投資・経営,法律・会計,医療,研究,

教育,技術,人文知識・国際業務,企業内転勤,興行,技能

就労目的の大部分は興行(90年=75,091 人)であり,以下教育

(90年=4,929人),投資・経営(90年=3,807人)となっている。

就労目的者を国籍別にみると、フィリピン42,940人(47%),アメリカ

42,940人(19.2%),中国5,103人(5.6%),イギリス4,950人(5.4%),

韓国・朝鮮3,328人(3.6%)であり、約5 割を占めるフィリピンの

在留資格は大部分が興行によるものである。

又、『年度別の在留者(外国人登録者)数』の推移は以下の通り

である。*18

(資料出所:法務省入国管理局)単位:人

|外国人|就労目的|留学・||

|登録者総数|(**2に同じ)|就学|研修|

1986年|867,237|30,645 |35,600 |5,175 |

1988年|941,005|40,398 |76,981 |8,727 |

1989年|984,445|49,384 |80,936 |10,817 |

1990年|1,075,317|61,565 |84,310 |13,249 |

1990年の外国人登録者総数は対前年比90,862人の増加となっている。

国籍別にみると、韓国・朝鮮が687,940 人(64%),中国150,339人

(14%),ブラジル56,429 人(5.2%),フィリピン49,092人(4.6%)の順で

続いており前年比で見るとブラジルの伸びが非常に高く288.4%増,

アルゼンチンが149.4%増となっている。又、「就労」が認められて

いる在留者は対前年比24.7%の増加となっている。

次に特徴的なことは、90年6月の改正入管法施行以降中南米諸

国から来日する日系人が急増していることである。これは、いわゆ

る日系2世,3世が「定住者」という在留資格にて入国したためで

あり,その数は1990年で8,154人にのぼり大部分が外国人労働者と

して就労しているのである。

尚、我が国は昭和54年7 月13日の閣議了解に基づき,定住希望イ

ンドシナ難民について1万人という受入枠を設定して,これを受入

ており1989年11月30日現在の受入数は6,362人になっている。*19

第2節外国人の不法就労状況

入管法によれば不法就労外国人とは、1.資格外活動者(例えば在

留資格が「短期滞在」の者が就労したり「留学」や「就学」の者が

資格外活動として許可された範囲を超えて就労する場合がこれにあ

たる),2.不法残留者のうち報酬,その他の収入を伴う活動を行っ

ている者(例えば在留資格が「短期滞在」の者が許可された在留期

間が過ぎても帰国せずに我が国に留まって就労する場合がこれにあ

たる)3.不法入国者及び4.不法上陸者をいう。

入国管理局により不法就労として摘発された者の数は1990年には

16,608人に達し,1985年(5,629人)に比較すると約3 倍になってお

り,具体的な内容については別表−5の通りである。

不法就労者の内訳をみると男性不法就労者の急増が顕著であり

1990年においては全体の7 割に達し,国籍別ではフィリピン,パキ

スタンの順で多く,これら2 ケ国を含むアジア7ケ国で全体の9 割

を占めている。次に就労内容をみると男性については総数11,791人

中,建設作業員5,581 人,工員4,696人,雑役575人,店員227人

と単純労働分野に従事する者が9割以上を占めており一方、女性

については総数4,817人中ホステスが3,225人と7割を占めてい

る。*20 現実には、入国管理局の摘発を受けない潜在不法就労者も

多数いると考えられその総数は10万人を超えているものと推定され

ている。

又、初瀬龍平著「外国人労働」−相互主義の導入*1によれば、

合法就労者が3万人前後,不法就労者は10〜15万人,定住外国人労

働者数は30〜44万人前後と推定しており,不法就労者の方が合法就

労者よりも多く定住外国人の労働者数に近づいていることは異常で

あり,現状の不法のままでも不法就労者の数は増加するであろうと

指摘している。

尚、法務省のまとめた潜在的不法残留者は,1988年まではほぼ倍

増ペ−スで増え,89年12月1日時点で113,895人と88年12月末の

77,365人に比べて47.2%の伸びとなっている。*21

当該期間における増加(77,365人)の国別内訳は以下の通りである。

  • −−−−−−−−−+−−−−−(法務省入国管理局調べ)

フィリピン|24,193人

韓国|12,488人

バングラデッシュ|11,594人

パキスタン|11,345人

タイ|11,111人

中国|7,484人

第3節外国人労働者の就労等の実態

外国人労働者の就労等の実態については、改正入管法施行後にお

いていくつかの調査がなされている。本著では前述の『研究会調査

結果』及び神奈川県労働部が90年12月に神奈川県内にて実施した調

査結果に基づき,外国人労働者の就労等の実態についてふれること

にする。これらの調査結果を要約すると、

『20〜30才台の比較的高学歴者が製造業,建設業等の単純労働と

いわれる職種に従事,彼らの出身地はパキスタン,フィリピン,中

国などアジア諸国とラテンアメリカであり所得は10〜30万円台とな

っている。資格外活動や不法残留者など不法就労外国人が多い為か

労働時間が長い,社会保険の加入がなされていないなど劣悪な労働

環境での就労となっている。就労者は、比較的長期滞在者が多く,

就労期間に定めがないとか,あったとしても継続雇用を希望する

雇用主が多い。』

といった姿がみられるのである。

第3章外国人労働者問題に関する国民の意識

それでは、外国人労働者の就労等に伴う諸問題に関する国民の意識

はどのようになっているのであろうか。総理府にて実施した世論調査

*22 (90年11月22日〜12月2 日に実施)結果に国民の意識をみること

が出来るのでこの調査結果に基づき概観を述べることにする。

第1節外国人労働者問題への関心

外国人労働者の問題に関心があるか否かについては、関心があると

答えた者が48.6%(大いに関心がある=9.5%+ある程度関心がある=

39.1%),関心がないと答えた者が49.9%(あまり関心がない=31.8%+

18.1%)となっており拮抗している。

第2節不法就労について

1.不法就労への賛否

不法就労(例えば観光客として入国した外国人がホステス,土

木作業員,工員などして働き収入を得ること)については、

1.「良くないことだ」=32.1%

2.「良くないがやむを得ない」=55.0%

3.「その他,わからない」=13.0%となっている。

又、1.と答えた人にその理由は何か2 つ迄聞いたところ,「日本

の法令に違反するから」=48.7%,「治安・風紀等が悪くなるから」

=43.3%,「売春等で人権が侵害されたり犯罪の温床となるから」

=43.0%などとなっている。

次に2.と答えた人にその理由は何か2つ迄聞いたところ,「そ

の人が得た金で家族が暮らしていけるから」=50.8%,「日本企業

の人手不足を解消してくれるから」=47.9%,「その人が納得して

働いているのだから」=29.5%,「高収入を求めて日本に来るのは

当然だから」=29.5%などとなっている。

2.不法就労者への対応

不法就労者に対してどのように対処すべきかについては、「法

令に違反している以上,法令で定められた手続きにより全て強制

送還する」=33.6%,「暴力団関係,売春,その他悪質な場合だけ

重点的に取り締まる」=40.6%,「労働力が不足している分野では

取り締まらないでそのままにする」=11.4%となっている。

この点について、同じく総理府が昭和63年2 月に実施した調査結

果と比較すると「法令に違反している以上,法令で定められた

手続きにより全て強制送還する」と答えた者の割合が低下(37%→

33.6%)し,「労働力が不足している分野では取り締まらないで

そのままにする」と答えた者の割合が上昇(7.3%→11.4%)している。

第3節単純労働者の入国・就職

1.単純労働者の入国への賛否

単純労働に就労する外国人の入国は認めないという方針については

1.「単純労働者の就職は認めない現在の方針を続ける」=14.1%

2.「単純労働者であっても一定の条件や制限をつけて就職を認め

る」=56.5%

3.「特に条件をつけずに日本人と同じように就職を認める」=

14.9%となっている。

次に1.と答えた人の理由(複数回答)については、「治安が悪化

するおそれがあるから」=54.0%,「景気がいい時はともかく不況

の時には日本人の失業が増加するおそれがあるから」=52.7%,

「地域社会の中でトラブルが多くなるおそれがあるから」=38.7%,

「日本人が就きたがらない仕事に外国人を使おうとするなど外国人

に対する歪んだ見方が生じるおそれがあるから」=20.6%の順に

なっている。

一方、2.と答えた人にどのような条件や制限が必要かと思うか

を聞いたところ(複数回答),「期間に制限をつけそれ以上の滞在

は認めない」=48.2%,「国や地方自治体など責任ある機関のみが

雇うことが出来るようにする」=23.4%,「本人に限って滞在を認

め家族の呼び寄せは認めない」=20.1%などとなっており、最も

割合の高い「期間に制限をつけそれ以上の滞在は認めない」とし

た者に適当な受入期間を聞いたところ,「1 年を超して2 年以内」

=30.2%,「6 ケ月を超えて1 年以内」=27.3%,「2 年を超えて3

年以内」=15.1%,「6 ケ月以内」=7.3%となっている。

又、3.と答えた人の理由(複数回答)については、「経済的に

苦しい状態にある人たちを助けることになるから」=51.0%,

「日本企業の人手不足を解消してくれるから」=47.5%,「開発途上

国への経済協力につながることだから」=25.6%,「日本の国際化

に役立つことだから」=21.9%の順になっている。

2.単純労働者受入に関する諸意見への賛否

単純労働者受入に関するいくつかの意見への賛否については、

以下の通りであった。

1.開発途上国の労働者の受入は日本の義務である。

「そう思う」と答えた者は26.5%,「そうは思わない」と答えた

者は41.0%であった。

2.開発途上国の経済状態は,むしろ経済協力などを行うことで

改善していくべきである。

「そう思う」と答えた者は52.9%,「そうは思わない」と答えた

者は18.4%であった。

3.単純労働者の受入は,日本の社会を活性化させるものである。

「そう思う」と答えた者は23.5%,「そうは思わない」と答えた

者は42.0%であった。

4.単純労働者の受入は,教育や社会保障,住宅建設などについて

大きな費用がかかるおそれがある。

「そう思う」と答えた者は56.8%,「そうは思わない」と答えた

者は19.5%であった。

又、この質問で「そう思う」と答えた者に,仮に外国人の単純

労働者を受入るとした場合,その費用は誰が負担すべきかを聞い

た所「国民全体で負担すべきである」8.6%,「外国人労働者を雇

い入れる事業主が負担すべきである」59.2%,「産業界全体で負担

すべきである」26.6%となっている。

3.人手不足感とそれへの対応

人手不足感の問題については、1.「あらゆる所で人手不足が問

題になっていると思う」31.7%,2.「単純労働の現場など特定の

職場において人手不足が問題になっていると思う」44.2%,3.「特

に人手不足だとは思わない」15.9%となっている。

上記にて1,2と答えた者に人手不足についてどう考えるか

を聞いた所、「人手不足は現実に深刻であり国内の労働力だけで

は限界があるので,社会的な問題があっても外国人単純労働者の

受入を考えていくべきだ」18.9%,「高齢者や女性の活用を図った

り労働条件の向上や職場環境の改善など魅力的な職場づくりのた

めの努力をできるだけ行ない,それでも人手が足りない場合には、

単純労働者の受入を考えることもやむを得ない」49.1%,「人手不

足感はあるとしても高齢者や女性の活用を図ったり,労働条件の

向上や職場環境の改善など魅力的な職場づくりのための努力によ

って解決を図るべきであり,安易に単純労働者の受入を考えるべ

きでない」26.6%となっている。

4.単純労働者受入に伴う家族呼び寄せへの賛否

仮に外国人の単純労働者を受入るとした場合,その人達が家族

を呼び寄せることについての賛否は、「家族を呼び寄せて日本に

永住することを認めてもよい」18.6%,「日本への永住は認めるべ

きではないが,家族と同居する形での一定期間の滞在は認めても

よい」32.6%,「あくまで本人の一定期間の滞在のみを認めるべき」

36.5%となっている。

5.外国人に対する行政の対応

外国人に対する国や地方公共団体の対応については、「積極的

に充実を図っていくべきだ」26.9%,「今よりは充実していくべき

だ」43.2%,「あまり充実させる必要はない」13.9%となっている。

第4節まとめ

上記の調査結果のみで日本国民の総意を把握することは困難であ

るが、日本人の外国人労働者に対する意識の概念は次のように捉え

ることができる。単純労働者の入国については、現在の労働市場状

況(所謂3K職場などの発生等)に鑑み5割以上の人が期間に制限

をつける(6ケ月〜2年),雇用者を限定するなどの条件をつけて

認めるとしている。一方、開発途上国への貢献は,労働者の受入に

は依らず経済協力で実施すべきとする意見が5 割以上をしめており,

単純労働者の受入は、社会的コストの増加をまねき,日本社会の活

性化にはつながらないとしている。次に、外国人労働者導入の主要

な目的である人手不足の対応については、企業努力によって乗り越

え,安易な外国人労働者の導入には反対とする人が27%弱であり,

約70%の人は企業努力を行っても不足する場合は条件をつけて外国

人労働者の導入も致し方ない,あるいは、社会的な問題があっても

受け入れていくべきとする意見であった。

つまり多数の人々は、『いわゆる人手不足を解消してくれるため,

外国人労働者が短期的に就労し,一定期間後に帰国してもらえば

良い』と考え,条件付賛成の態度をとっていると受け止められる。

現在の日本における外国人労働者問題は、労働力不足への対処の

他に国際的責務論,異質文化との交流の必要性(ヒトの国際化,あ

るいは内なる国際化)など労働経済以外の分野からの議論もなされ

ているが、上述の如く人手不足解消をはかる為に外国人労働者の受

入を条件付で認めるという国民の意識は、かつて西ドイツなど西欧

諸国で外国人労働者を受け入れた際に「国民的コンセンサス」とし

て得られたものと同質なものと捉えられるのである。

第4章外国人労働者受入についての賛否両論

外国人労働者の受入をめぐる論議の特徴的なことは、賛否両論が並

び立つことである。なぜならば、外国人労働者問題への対応は単に労

働市場の問題にとどまらず広汎な社会問題、政治,経済,外交,人権

等,国家と産業と国民生活のすべてに関わっていることから,個々の

論者の結論が多くの場合,賛否の要素が組み合わさっているとか,様

々な事実認識の違いから立場の相違が生じている場合も少なくないか

らである。以下具体的に肯定論(受入論)と否定論(反対論)を述べ

ながら多様な意見についてふれることにする。

第1節肯定論(受入論)と否定論(反対論)について

1990年6 月に施行された改正入管法により,外国人労働者をめぐ

る開国/鎖国論争はひとまず終止符をうった感があるが、国内労働

市場における人手不足の深刻化,更には不法就労にもかかわらず外

国人労働者が増加している等の理由から受入(条件付受入)賛成/

受入反対の論議が引き続き実施されている。以下それぞれの論点を

みることにしたい。*23 外国人労働者受入肯定論者が指摘している

主なる受入の事由は、

1.我が国経済の成長を確保するためには、労働力人口のある程度

の増加が必要であって,そのために外国人労働者を受け入れる

必要がある。

2.我が国経済は、短期的にも長期的にも労働力不足に直面するの

で,その解消には外国人労働者の受入が有効である。

3.外国人労働者の受入は特定の業種や職種,中小企業等における

慢性的な人手不足を補い,生産拠点の海外への移転による国内

における産業の空洞化を阻止し,また社会的なサ−ビスを行う

うえで有効である。

4.国際間の賃金格差を前提に,労働力が国際間で移動することは

経済原則に適合し,送金収入等を通じ開発途上国の発展にとっ

て有効である。

5.外国人労働者を「ロ−テ−ション方式」で受け入れることは、

労働力需給の円滑な調整にとって有効である。

6.内なる国際化を進めるにはヒトの交流を通じ文化や習慣の相互

理解が必要であり,そのためには外国人労働者(この場合は単

純労働者のみでない)や留学生の受入が有効である。

というものであった。

一方、外国人労働者受入否定論者の指摘するポイントは、

1.外国人労働者の受入は我が国の労働市場や労働条件に悪影響を

与える。

2.外国人労働者の受入は我が国の技術進歩を遅らせ,現状の経済

構造を固定化する。

3.外国人労働者の受入の結果、教育,職業訓練,住宅,保健衛生

等の広範な社会的コストが発生する。

4.外国人労働者の受入は外国人研修生の受入と異なり,開発途上

国に対する技術移転を通じた国際協力とはなりえない。

5.外国人労働者の受入は我が国社会の利点であるとも言われる同

質性を失わせ経営,労務管理の面にも支障が生じる。

というものであった。それぞれの事由を,1.労働力不足2.雇傭機会

3.受入方法4.国際協力5.相互理解/国際化という観点で整理

してみると以下の通りとなり両論がそれぞれ並び立つのである。

受入賛成|受入反対

  • 受入は労働力不足を補う。|・我が国の労働市場に悪影響を

|与え,労働力余剰が生じた時

|の対応に問題が残る。

  • 途上国の人々に就労機会を与|・現地に雇用機会を創出すべき。

えることが出来る。|

  • ロ-テ-ション方式による受入が需|・受入に伴う社会的コストの発生

給調整に有効|

  • 送金収入は途上国の発展に|・途上国に対する国際協力になり

有効。|えない。

  • 文化,習慣の相互理解(国際|・国際化を促すものとは考えにく

化)に有効。|い。(同質性を失わせる)

試みに1.労働力不足ということで具体的に論点を述べてみると、受

入賛成派は,我が国の人手不足に対処するとともに経済成長を持続

させるためには外国人労働者を受入ることが必要だと説くのに対し,

反対派はそれらの導入は二重労働市場を生むおそれがあり,円滑な

産業構造転換の阻害要因となると説き,賛否両論がそれぞれ説得力

をもっているのである。

第2節改正入管法と政府の方針

入管法は、昭和26年に制定され,その後昭和56年若干の手直しが

行われたが今日の国際化時代の要請に必ずしも十分に対応している

とは言えない状況にあった。このため政府は、今日の出入国管理を

めぐる情勢の変化に対処することを目的として同法の改正に着手し

たのである。改正入管法は平成元年3 月28日の閣議決定をへて,同

年12月8 日に成立(第116 国会),12月15日公布,平成2年6月1日

に施行された。

主要な改正点(詳細は別表-6参照)は、

(1)在留資格の整備・拡大

我国に入国,在留を認める外国人の在留資格の種類・内容を

見直し旧法の18種類に加えて10種類の新たな在留資格を

設けた。

(2)入国審査手続きの簡易,迅速化

「上陸審査基準」の省令による制定と手続きの簡易,迅速化。

(3)不法就労外国人対策のための関係諸規定の整備

不法就労を目的として入国しようとする者の防止を的確かつ

強力に実施するための規定及び罰則の整備。

(4)関係行政機関との協力,連携

関係省庁と協議し関係省庁の基本施策との調和を図る。

というものであり、開国,鎖国論で盛んに論議が行われた『単純労

働者』の入国については、その入国を認めないことになった。

その具体的事由として,法務省入国管理局参事官室の見解(労政時

報第2961号)は、

1.単純労働者の受入についての議論が多岐に別れているほか,そ

の受入は、日本の労働市場への影響(労働条件改善の阻害要因,

低水準労働条件市場の固定化等),経済活動(産業構造改善の

阻害要因等),社会活動(言語,宗教,生活慣習等の相違から

くる社会摩擦問題等),対外関係(労働条件,帰国問題等から

の議論)などへの重大な影響を及ぼしかねず,ひいては将来の

日本社会の在り方いかんにも関わるものであり,今後も幅広い

観点から議論し,国民的合意の上に方針を決める必要がある。

2.単純労働者については近隣諸国からの供給圧力が強い。本件に

ついては検討すべき問題が多岐にわかれており,その結論を得

るまでには相当の日時を要するものと見込まれる。

3.当面は、単純労働を目的とする外国人の入国は原則として認め

ないとの前提に立ち,単純労働がその大部分を占めている不法

就労の防止のより一層の徹底を期する。

であり外国人労働者(単純労働者)の受入については当面これを

認めず更に検討を進めるという方針が示されたのである。

一方、外国人労働者(単純労働者)の受入については当面これを

認めないとした政府方針にも関わらず,今回の改正で新たなる在留

資格である「定住者」**3 というものが認められた。

***3「定住者」とは、法務大臣が特別な理由を考慮し,一定の

在留期間を指定して居住を認める者との規定である。

最近では、この規定に基づき祖父母,父母の何れかが日本国籍を

持っている者(外国人),所謂日系2,3世の当該資格に基づく入

国が急激に増加しており、改正入管法施行後の激増ぶりは第2章で

述べた通りである。彼らは、南米移民の2世,3世であり特に3世

は日本語も話せない人が大部分であるが、公に就労が認められるこ

とから部品工場,建設関係等人手不足感が強い職場(いわゆる単純

労働)の貴重な労働力として就労している。これらの措置は、政治

的な判断によるものと考えるが、彼らの就労場所である市町村にお

いて教育,住宅,福祉等の問題が発生しており,更にまた当該労働

者の送出国からの移動に伴うブロ−カ−の介在等が見られる等

様々な問題も生じ始めていることを指摘しておきたい。

第3節論議結果と方向性

1987年以降の外国人労働者の受入をめぐる論議の結果、全面的受

入論と全面的否定論,いわゆる鎖国論が現実的には有り得ないこと

がほぼ合意されてきたのである。*24 つまり、全面的受入論は労働

移動の完全自由を意味するものであり,労働力輸出国(パキスタン,

フィリピン等)の送出能力及び潜在的な能力をみれば,日本の管理

や受入能力を完全に超えていることが明らかになったからである。

次に鎖国論については、現実に外国人労働者が存在し,増え続ける

不法就労者や不法在留者に目をつむり,周辺諸国の経済や政治の状

況を全く無視しているとして評価できず,更にその巨大な流入圧力

は数少ない入管局だけでは防ぎきれないからである。*25

このような状況の中で『外国人労働者(単純労働者)の受入につ

いては当面これを認めず,更に検討を進める』という政府方針、

いわゆる改正入管法の施行が1990年6 月に行なわれたのである。

一方、改正入管法施行後も前述(第1節肯定論と否定論)の如き

論議が進められており,その方向性としては、『規制よりもどうル

  • ルを作ってコントロ−ルするかという時期にきている』*26 とか,

第3章で述べた如く『いわゆる人手不足を解消してくれるため,外

国人労働者が短期的に就労し,一定期間後に帰国してくれれば良い』

という条件付受入賛成の意見が多く見られるようになってきている

のである。(参考として労使団体がとりまとめた提言の概要を添付

する。別表−7参照)

しかしながら、具体的受入条件(受入期間,受入人数,受入職種,

単身か帯同か,定住を認めるか否か,受入国籍を限定するのか否か

等)については必ずしも意見が統一されていないのである。又、受

入条件の選択肢は十人十色といってもいいほど幅が広いものであり

総論(条件付受入)では合意がみられても各論(具体的受入条件)

になると合意形成が難しいという状況であると捉えられるのである。

第5章欧米諸国における外国人労働者の導入と現状

外国人労働者(単純労働者)の受入は不可ということが我が国の方

針であるが、様々な論議の中で条件付受入という方向性が示されてい

る。それでは、外国人労働者導入の先駆者である欧米諸国での対応は

どのようなものであったのであろうか?

我が国における外国人労働者問題に対する今後の方向性を得るにあた

り、主要先進国での戦後の外国人労働者受入の状況,特に1960年代に

西ドイツが実施した外国人労働者の受入プロセス,方法,問題点,今日

の状況などにふれながら考察を進める。

第1節欧米諸国の対応状況

1950年代末頃から大量の外国人労働力の導入を行ってきた西欧諸

国(特に西ドイツ)は、1970年半ば以来その受入を停止し,むしろ

外国人労働者の本国送還を促進する政策をおし進めている。

今日における主要各国の施策は以下の通りである。*27

  • フランス

1974年10月以降EC域外からの労働力の新たなる受入は厳しく

制限。1983年から1984年にかけて帰国奨励,規制強化等の措置

を強化している。

  • 西ドイツ(現ドイツ)

1973年11月に外国人労働者の国外募集が停止されて以降,EC域外

外国人に対する新規労働許可の発行は厳しく制限。

1983年11月外国人労働者帰国促進法を制定し帰国補助金を支給

更に1986年1 月帰国外国人の住宅建設等に関する法律が発効し

帰国奨励の措置を講じている。

  • イギリス

1980年に規制を強化,労働許可の発給対象が専門資格者等のみ

と厳しく制限されている。

又、世界最大の移民受入国である米国においても急増する「不法密

入国」に対する取締りの強化をはかるとともに雇用目的の移民枠を

54,000人に抑える施策がとられている。しかしながら、1990年11月

には国際競争力強化の観点から改正移民法が成立し,特別な能力を

持つ外国人40,000人,専門的労働者枠40,000人及び熟練労働者

30,000人,非熟練労働者10,000人の受入枠が設けられた。*28

このように欧米先進諸国においては、一時的労働力輸入制度は既

に過去のものとなり移民,外国人労働者の帰国促進と帰化を含む統

合政策の展開に変化,EC域内においては経済統合にむけた新たな政

策が進められているのである。

第2節西欧における国際労働力移動についての一般認識

1960年代の西欧における国際労働力移動についての一般認識は*29

「受入国は労働者が永住する場合に必要となる社会的インフラストラクチャ-

投資のコストを免れるので外国人労働者の受入から利益を得る。

同時に送出国側においても一定割合の失業の輸出,自国民の職業訓

練,そして送金などから利益を得ることが期待された。更に一定期

間が経過すれば送出国は,多数の熟練労働力を獲得できるなど利益

を得るはずであり,最後に外国人労働者自身も受入国で良い賃金を

稼ぎ技術を習得し,それによって帰国後の自国の経済発展に貢献で

きると期待していた。」のである。

これらの一般認識は、第4章で述べた我が国での受入肯定論にも

相通じる所があり非常に興味深い。

しかしながら、現実は双方に等しく利益をもたらすバラ色のもの

ではなかったのである。周知の通り受入国は,外国人労働者の受入

により当面する労働力不足を緩和でき,外国人労働力導入の利益を

享受できたが、送出国は所期の経済的目的を達成出来なかったばか

りか世界不況の直撃を受け,インフレそして国際収支赤字の拡大と

いうトリレンマに巻き込まれ,出稼ぎ送金なしには経済の存立さえ

も危ぶまれる破局的な状況に追い込まれているのである。*30

つまり受入国(例えば西ドイツ)は、後述するロ-テ-ション政策によ

り導入した外国人労働者が高度経済成長に多大な貢献をしたが,主

要な送出国であるトルコは,その後の世界的な経済変動などの影響

もあり累積債務国化していき,外国人労働者自身も失業問題,子女

の教育/就職等の厳しい現実に直面することになったことは,今日

のドイツにおける外国人労働者問題をみてもあきらかである。

第3節西ドイツにおける外国人労働者導入とその後の対応

1950年代の西ドイツ経済は、周辺諸国からの難民の制御不可能な

流入によって高い失業率を維持しつつ,奇蹟的な経済復興を達成し

た。続く1960年代の西ドイツ経済は、外国人労働者の制御可能な募

集によって超完全雇用状態を保持しつつ,驚異的な経済成長を達成

することになった。*31 それでは,西ドイツにおける制御可能な外

国人労働者の募集による経済成長の達成とはどのようなメカニズム

であったのであろうか?

西ドイツのそれは、国家間の双務協定に基づく外国人募集の手続

上の整備であると指摘されており,*32 双務協定の重要な軸をなして

いた労働許可証と居住許可証の発行は、外国人労働者の就労期間の

制限を可能にするとともに,個別資本の要求と国内労働市場の保護

を可能にするものであったのである。これらは、「ロ-テ-ション政策」

と呼ばれ第1の原則は,失業の輸入阻止と国内の完全雇用状態をた

もたさせるものであり,必要に応じて就業者が国境の外から調達さ

れ失業者として排出される『産業予備軍の外部化』*33 メカニズム

の形成であった。第2には、現行の賃金水準と労働条件の確保であ

り,具体的には自国民労働者が外国人労働者との競合状態に陥るこ

とを回避する『自国民優先』*34 の原則であった。次に労働コスト

の節約にとっては上層の基幹労働力の固定化を促進しながらも他方

で下層労働力の流動性を確保することが不可欠と見做されたのであ

るが、「ロ-テ-ション政策」による国家の介入と国境の存在は、このよ

うな下層流動化の確保を可能にしたものと指摘され,西ドイツの

「ロ-テ-ション政策」を支える第3の原則になったのである。又、これ

らの3 原則に基づく「ロ-テ-ション政策」は国家と個別資本の利害関係

を一致させるものであったことから,1960年代の同国の高度経済

成長を可能ならしめた大きな要因となったのである。

一方、1960年代末から1970年代初めに外国人労働者が急激な増加

を伴って導入されることになった結果、外国人労働者の長期滞在傾

向がしだいに認められるようになるとともに,失業など様々な問題

が露呈するに至り,1973年の外国人労働者の募集が停止となり,

「ロ-テ-ション政策」は終焉を迎えるに至ったのである。

その後西ドイツ政府は、1980年代から外国人労働者の帰国奨励を

促進する一方で『インテク゛レ-ション政策』と呼ばれる新たな政策を策定,

実施している。「ロ-テ-ション政策」が外国人を一時的な労働力『商品』

と見做してきた経済システムに準拠した労働市場政策であったのに

対し、『インテク゛レ-ション政策』は,むしろ教育,文化,社会といった日

常の生活世界に関連した社会福祉政策、つまり外国人労働者を家族

を伴った『人間』とみなす福祉政策という観を呈しており外国人政

策の対象に置かれるのは,一時的な外国人労働力ではなく長期の在

住を前提にした外国人労働者とその家族なのである。*35

第4節まとめ

欧米先進国の戦後における高度経済成長期(1950〜1960年代)に

は、米国におけるメキシコからの農業労働移民,西ドイツ,フラン

ス等における周辺諸国からの外国人労働者の導入が図られ,これら

の労働力が当該国の経済成長に貢献してきたことは既に述べた通り

であり,これらは資本蓄積過程における産業の再編に伴って引き起

こされた移民労働ととらえられている。*36

一方、1970年代以降の労働力移動の問題は中心部諸国の資本によ

る,単なる低賃金労働力の利用に止まらず,高度成長過程を通じて

もたらされた蓄積諸条件の変化と深く係わっている。*37 具体的に

は、1960年代の外国人労働者が還流する者であったものに対し,

1970年代以降は資本主義経済の成長によって滞留するものに変化し

たのである。このような変化は、失業問題,人種差別主義の台頭,

外国人労働者の2世,3世の教育,就職問題等さまざまな社会問

題を発生させる要因となったのであるが、これらの変化への対応が

西欧諸国での「流入規制」であり,「帰国奨励策の実施」であり『

インテグレ−ション政策』という方針への転換につながっていくも

のであったのである。

第6章結論(今後のあるべき方向性について)

1960年代の高度経済成長時においては、その存在をほとんど見

ることが出来なかった外国人労働者が1986年以降,我が国の労働

市場に登場し急激に増加した要因,背景について考察を進めた結果、

受入国である我が国の経済・産業・社会構造の変化と長期にわたる好

況が特定分野,特定業種の人手不足をうみだしたこと、更には我が国

の経済成長及び円高の進行過程で生じた,送出国であるアジア諸国と

の相対的な所得格差の拡大が,我が国の労働市場に国際的な労働力移

動(合法であるか否かを問わない動き)を発生させたことに起因する

ことが理解出来たのである。

1.政府方針と条件付受入論について

次に外国人労働者の受入をめぐる論議は、『単純労働者の受入につ

いては当面これを認めず,更に検討を進める』という改正入管法に示

された政府方針にて一応の結論をみたのであるが、今日の人手不足状

況,あるいは着実に増加している不法就労等の問題から,引続き各方

面から我が国としてとるべき方向性についての検討・提言が行われて

いる。それらの内容は第4章で述べた如く条件付受入を認めるべきと

の意見であり、国民の意識(世論調査結果)も『いわゆる人手不足を

解消してくれるため,外国人労働者が短期的に就労し一定期間後に帰

国してくれればよい』という条件付受入賛成の考え方に立っていると

理解される。

しかしながら、現在の条件付受入賛成論では具体的受入条件(受入

期間,受入人数,受入職種,単身か帯同か,定住をみとめるか否か,

受入に伴う社会的コストの負担をいかにするか,受入国籍を限定する

のかオ−プンにするのか,不法就労防止手段としてどのような対策を

講じるのか等)が必ずしも明確に定まっておらず,更には国民の意識

レベルが、1960年代の西ドイツにおける外国人労働者導入時の「国民

的コンセンサス」と同じか若しくは,そのレベルを下回っているとも

受け止められるのである。従って、このような状況下での性急な条件

付受入は、いたずらに混乱をまきおこすものと判断せざるを得ないの

である。

何故ならば、「ヒト」は、モノ,カネ,情報のように使い捨てるこ

とが出来ず自己主張をする主体であることから、その処遇をめぐる紛

争は移動した当人にとっても受入た社会にとっても幸せなことではな

く充分に慎重でなければならないことである。第2の理由としては、

期限付就労を認めることで全ての問題が解決されないことは西ドイツ

の例をみてもあきらかであることである。第3は二国間協定について

の問題点である。条件付受入論のなかで,二国間協定に基づく外国人

労働者の秩序だった受入という方策が述べられている。これは、打ち

出の木槌のように言われているが,人数,期限などを制限しても送出

国が日本の国内でそれを守らせる術がなく,結果的に受入国である日

本の行政機関によるコントロ−ルが必要となるという問題がある。

又、西ドイツにおける二国間協定は外国人労働者を採用する際に手続

き的にはスム−ズで,しかも平等かつ明確な労働条件を確保するには

効果があったものの,量的な規制の点ではほとんど効果がなかったの

である。*38 つまり,いったん入国をした外国人に帰国命令を出した

り入国の期限を守らせたりするような二国間協定など国際法の常識か

らしても不可能であり,現実論としても難しいと言わざるを得ないの

である。*39 最後にNIEs以外の東南アジア諸国,南西アジア諸国の潜

在的な労働力送出圧力は非常に大きなものがある他、巨大な人口を有

する中国においては,今後の開放政策の進め方いかんによって,多数

の労働者が国外に流失する可能性があると言われており,これらの巨

大な送出圧力をも考慮に入れた対応策を考える必要があると判断され

ること、及び今日の国際労働力移動が還流するものから滞留するもの

へと質的変化を起こしていることからも,安易な条件付受入は回避し

なければならないと考えるのである。

2.今後の課題について

それでは今後共,現在の対応を続けることが可能なのであろうか?

我が国の入管行政は、今般の改正入管法により専門的及び技術的な外

国人労働者の受入については国際的にみても広く開かれた状況になっ

たと捉えられるが,将来的には、現段階で入国及び就労が認められて

いない外国人労働者も,きちんとした受入条件のもとに働けるような

体制作りをしていくことが必要であると考えるのである。

何故ならば,将来の国内労働市場に供給不足が生じる可能性を拭い

きれないからである。労働省職業安定局の資料(別表-8) によれば,

我が国の労働市場は、1990年代半ばまで若年労働人口が増加し労働力

人口全体も2000年までは増加が続く中で,年率4%の経済成長を前提と

した場合、生産性の向上等に努めればマクロの労働力受給バランスを

図ることが可能としている。しかしながら、2000年における労働力供

給の総数に占める55歳以上(高齢者比率)の供給数が23.1%となっ

ていること,及び今後10年間の景気循環過程においては,今日のよう

なミクロレベル(職種,年齢,地域等)での人手不足顕在感が生じて

くることも想定すべきであり、我が国が安定成長を続けるための労働

力供給先の確保を,国内労働市場以外,つまり外国人労働者に求めざ

るを得なくなると考えるからである。これらの課題に対処するために

は、現時点において以下のような対応策を講じることが不可欠である

と考えるのである。

まず最初に外国人労働者受入の体制作りであるが、受入の対象とな

るものが「ヒト」の問題であることから,短期的な労働力不足,ある

いは資本の論理のみを前提にするのではなく、世界経済における我が

国の位置づけと,周辺アジア諸国の状況,更には我が国の政治,経済,

社会体制等全般的な観点をも念頭に入れた長期的な視野に立って,

外国人労働者への対応方針を決めるとともに国家レベル(タテ割り行

政の縄張り意識は排除する)での受入体制整備の検討及びこれに平行

した国民のコンセンサス作りを早急に行うべきである。

(従来はややもすると真剣に論議されることがなかった,労働市場の

開放問題をもっと地に足をつけて討議し,方向性を見出すことが今日

の政治に求められる大きな課題であると考えるのである。)

次には外国人労働者の根本問題の解決策としてのアジア諸国と日本

の南北関係の改善といった点である。戦後の資本主義社会における高

度経済成長は、IMF,GATTなど自由主義経済体制の下で達成されたもの

であるが,一方において中心資本主義諸国と周辺国(いわゆる第3世

界諸国)との間に不等価交換と不均衡発展を生み出し,結果として生

じた経済格差がさまざまな歪みを生じさせた。その一断面が「ヒト」

(労働力)の国際移動を高めさせたことであり、その後の中心資本主

義諸国における諸条件の変化は、労働力移動の質をも変えてきたこと

及びこのような労働力の国際移動が受入国,送出国で様々な問題を提

起してきたことは第5章で述べた通りである。

アジアの送出国が直面している様々な問題は、我が国における外国

人労働者問題の発生にも深く関係しており、これら送出国がかかえる

雇用機会の確保等,労働力送出圧力を緩和することは,間接的ながら

我が国の外国人労働者問題の解決につながるものである。従って、

アジアの中心資本主義国である我が国は,アジア周辺国(開発途上国)

における国内雇用機会を増大させる諸施策、具体的には

1.自由貿易体制の継続と市場開放

アジアNIEsは、輸出指向型の工業化によって労働集約的な産業に

おいて急速な雇用創出を可能とし,過剰労働の吸収により所得水

準の改善や所得格差の是正をもたらした。このようなことから、

先進諸国の市場を開発途上国からの製品に開放することは,開発

途上国と先進工業国との間の経済構造の変化を進めるうえで重要

な前提となるため、この分野における貿易自由化を積極的に推進

することが重要な対応である。

2.我が国からアジア諸国への直接投資の増大

我が国製造業のアジアに対する対外直接投資と雇用の関係は、

別表-6の通りである。この実績をもとに試算した結果によれば,

対アジア直接投資がその比較優位を反映した労働集約的な分野に

集中すれば今後10年間に製造業において,少なくとも約100 万人

の雇用がアジア地域で創出できるとの推計がでているのである。*40

このような、送出国での雇用機会の拡大は供給圧力の緩和につな

がるばかりか当該国の経済発展にも寄与することから積極的に推

進する必要があるのである。

を官民が協力して実施すべきであると考えるのである。

最後に現在の不法就労外国人労働者の取扱いについては、入管当局,

労働行政当局,警察などの関係機関が一致協力して改正入管法の趣旨

に基づいた対応をとる必要があると考えるのである。

さいごに

専攻特論のテ−マを登録してから約1年間にわたり資料の収集,熟

読,ゼミでの指導を受けながら特論内容の構成を考える,その結果か

ら次なる資料(書籍)を求め図書館等をまわるという作業を繰り返し

行ってきた。これらの作業を通じ、自分の選んだテ−マについて考察

を進め,文章にまとめ,結論を得ることの難しさと楽しさということ

を強く感じた次第であり、これが最大の収穫であったのではないかと

受けとめている。

放送大学に入学以来7年の歳月が過ぎ去ろうとしているが、この勉

学を通じ学問というものの本質が少しはわかったような気がするので

ある。

最後に特論のゼミを通じ,更には特論の締切間際まで熱心にご指導

いただいた,坂井素思助教授に心から感謝申し上げる。


      

 

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