| 医療保険制度のもつ問題点についての一考察 | ||
| (掲載の都合で、図表の部分と説明を大幅に削ってあります。-
掲載者) 氏名 香取 雅子 所属専攻 社会と経済 研究テーマ:医療保険制度のもつ問題点についての一考察 現在、日本では少子化により健康保険制度の財源を支える労働者層が減少している。 また医療の進歩とともに高齢化社会が実現し、それに伴い医療の受益者層は増大している。 その為、医療費は膨張し、日本の健康保険制度の財源は、破綻の危機にさらされている。 一方、米国でも医療の進歩、高齢化等により政府の医療保障費は増大し、財政赤字を膨 らませている。 こうした医療費膨張のつけは、最終的に国民の保険料や税金に降り懸かってくる。 そ こで医療費の膨張を抑制し、保険料の適正化を図る必要がある。 そこで、本論文では、公平な負担及び医療費の膨張を抑制する案を提言する為に、第一 に、日本の医療保険制度がどのような構造になっているのかを調べる。 またこの構造の 中で、負担の公平性と医療費の流れはどのようになっているのかを分析する。 第二に、 米国のクリントン政権が、医療費削減の為に提言した医療改革案の構造をしらべる。 そ してその構造の中で、医療費の流れがどう抑制されたのか及び負担の公平はどうなってい るかを調べ分析する。 第三に、その分析した結果を日本の医療保険制度と照らし合わせ、 今後、医療費を抑制していく為の日本の健康保険制度の将来案を提言すべく、詳細を論じ てゆく。 以上 目次 第1章:日本の医療保険の危機的状況 第2章:資金の流れからみた日本の保険制度の構造 2.1. 政府の機能 2.2. 事業所及び被保険者の機能 2.3. 各保険組合の機能 2.4. 老人保険制度の機能 2.5. 病院の機能 2.6. 第2章のまとめ 第3章:日本の保険制度の問題点の分析 3.1. 政府の機能に関する問題点 3.1.1 非営利主義による支出増 3.1.2 出来高払い制と薬価基準制度による支出増 3.1.3 老人保険制度の患者負担定額払いによる支出増 3.1.4 課税に対する不公平感 3.1.5 保険料に対する不公平感 3.1.6 老人医療保険への拠出金に対する不公平感 3.2 事業所の機能に関する問題点 3.2.1 非営利の事業所による支出増 3.2.2 保険料に対する不公平感 3.2.3 所属外の保険組合に加入できない 3.2.4 中小企業の経営圧迫 3.3. 保険組合の機能があることによる問題点 3.3.1 非営利主義による支出増 3.3.2 保険料に対する不公平感 3.4 第3章のまとめ 第4章:クリントン案の概論 4.1 それぞれの構成要素の機能について説明 4.1政府・州の機能 4.2 国家医療委員会の機能 4.3 保険会社の機能 4.4 医療保険購入協同組合の機能 4.5 事業所の機能 4.6 被保険者の機能 4.7 病院の機能 4.8 第4章のまとめ 第5章:クリントン案の問題点 5.1政府・州があることによる問題点 5.1.1 非営利主義による支出増 ii 5.1.2 課税に対する不公平感 5.1.3 保険料に対する不公平感 5.1.4 保険料の設定ミスによる財政赤字拡大懸念 5.2 国家医療委員会があることによる問題点 5.2.1 税及び保険料負担に対する不公平感 5.2.2 薬・医療の質の低下 5.2.3 医療情報提供に対する懸念 5.3 保険会社があることによる問題点 5.3.1 非営利主義が残存することによる支出増 5.3.2 医療の質の低下 5.3.3 中小の保険会社の経営圧迫 5.3.4 保険会社の負担増 5.4 医療保険購入協同組合があることの問題点 5.4.1 非営利主義による支出増 5.4.2 非営利主義による保険の質の低下 5.4.3 保険料に対する不公平感 5.4.4 医療プラン選択の偏りによる支出増 5.4.5 被保険者のニーズに適合しない医療プランの提供 5.4.6 プライバシー侵害の問題 5.4.7 保険会社の経営圧迫 5.5 事業所があることによる問題点 5.5.1 非営利主義による支出増 5.5.2 保険料負担の不公平感 5.5.3 中小企業の経営難 5.5.4 被保険者の選択の制限 5.6 第5章のまとめ 第6章:医療保険に市場原理の導入が可能になった理由の分析 6.1市場原理を導入した場合の医療保険の問題点 6.2市場原理を導入可能にしたクリントン案のポイント 6.2.1 保険料の設定方法を規制 6.2.2 診療報酬決定方法 6.2.3 保険料の値上げを規制 6.2.4 年間医療費を規制 6.2.5 被保険者の保険の選択権を制限 6.3 第6章のまとめ 第7章:クリントン案は、日本の現行制度のどの点を市場化したことになるのか 第8章:現状の日本医療保険制度及び米国クリントン案を踏まえた 医療保険制度の将来案 8.1政府の以下の機能を提言 8.1.1 税金の負担の公平化 8.1.2 患者負担額の公平化 iii 8.1.3 保険料負担の公平化 8.1.4 組合保険会社への規制 8.1.5 保険料の補助 8.1.6 市場原理を導入することによる支出抑制 8.2医療プラン作成会社の提言 8.2.1 市場原理を導入することによる支出抑制 8.3 組合保険会社の提言 8.3.1 営利の組合保険会社による医療費抑制 8.3.2 民間保険会社によるインセンテイブ 8.4 医療監視委員会の提言 8.4.1 医療プラン作成部門に対する監視 8.4.2 組合保険会社に対する監視 8.4.3 医療プランの情報提供 8.4.4 医療給付内容と保険料の適正化 8.5 被保険者及び企業の機能の提言 8.5.1 医療プランの選択権の拡大 8.6 第8章のまとめ 第9章:結論 第1章:日本の医療保険の危機的状況 今日の日本では、医療の進歩により昔なら救いようのない病気も治療可能になった。 そして延命治療も進歩し日本は世界一の長寿国といわれるようにもなった。 しかし、そ の反面、医療の進歩による医療費の膨張及び高齢化による老人医療費膨張、によって医療 保険制度は今、破綻の危機にさらされている。 図1には、昭和63年度からの国民医療費の推移を兆円単位で示している。また、図2 には、国民一人当たりの国民医療費を万円単位で示している。 図1、図2より、国民医療費及び国民一人当たりの国民医療費が年々増加の一途を辿り、 西暦2025年には平成7年度の4倍になることが予想される。 また、図3に示すように、組合管掌保険の財政状況は、赤字の一途を辿り、健康保険制 度は、早晩、破綻することは必至である。 この医療費膨張の要因には大きく分けて、 高齢者人口の増大と医療制度の問題がある。 (1)高齢者人口の増大による医療費膨張 まず、高齢者人口の増大が、医療費を膨張させる主な原因は四つある。 第一に老人が、 通院する回数は若い世代の4倍である。 第二に、慢性の病気が多い(糖尿、高血圧、腰 痛等)。 第三に、悪化は防げても完治はできない。 第四に、お年寄りの自己負担は何 度病院にかかっても定額で月1020円のみの支払いである。 第五に、老人医療費の7 割の近くが医療保険の負担になっている。 (2)医療制度に内在する問題による医療費膨張 医療制度に内在する問題は、大きく二つある。 第一に、治療をすればするほど病院に 収益をもたらす出来高払い制度があることである。具体的には、出来高払い制度とは医師 が患者に対する治療や投薬を判断し医療保険が支払う制度である。そして治療行為一つ一 つに点数がありその一点は10円に換算されることになっている。健保に請求のあった過 剰な診療例では、 1.一人の患者に対し一ヶ月で429日分の薬の投薬がなされたケースがあった。 2.別の患者には一ヶ月で25回にわたるレントゲンが行われていた。 3.又ある末期の心臓病の患者にたいし一ヶ月の医療費2096万円が使われた。これ は600人から700人近くの保険料を一人で使った試算になる。 第二に、薬を使えば使うほど医療機関に薬価差益が得られる制度になってる為、医療費 の高騰につながる。 例えば日本の医療費の27兆円の内、8兆円(約3割)は薬剤費に よって占められている。 (3)問題の根元は何か 現行の日本の健康保険制度の大きな問題点は、税金の再配分の制度になっており、再配 分された税金が、非営利の組織から営利の組織へ流れる仕組みになっているということで ある。 それは、税金が、市場原理を通して無駄なくつかわれる制度ではないということ である。 米国のクリントン政権がかって打ち出した米国の医療改革案の制度に関しては、 税金の再配分の制度ではあるが、非営利の組織の中に一部市場原理を取り入れた形になっ ている。 だが、やはり非営利の組織が残ったままなので、税金が結局非営利から営利へ と流れ、無駄なくつかわれる制度ではない。 また両制度ともに、再配分された税金や被 保険者から徴収された保険料は、営利の組織及び疾病リスクの高い人に流れていく仕組み になっている。 結果として医療費膨張に、歯止めがかかる制度にはなってないのである。 (4)本論文での論旨展開 この医療費膨張のつけは、最終的に国民の保険料や税金に降り懸かってくる。 そこで、 少子化及び高齢化社会における医療費の膨張を抑制し、健康保険料の適正化を図る必要が ある。 それには、医療制度の抜本的な改革が必要とされているのである。 そこで本論 文では、日本の医療保険制度がどのような構造になっているのか、また資金は、その構造 の中でどのようにながれているのかを次の章で述べる。 次に、資金の流れと、負担の公 平性という観点から、日本の健康保険制度とクリントンの医療改革案の利点、欠点を調べ、 その共通点と相違点を比較してゆく。その結果、非営利の部分は、最小限に抑え、市場原 理を保険制度に導入する事が有効であると結論づけるべく、次章以降、詳細を論じてゆく。 第2章:資金の流れからみた日本の保険制度の構造 本章では、まず、資金の流れから見た日本の健康保険制度について説明する。 日本の健康保険制度は、非営利の政府と地方公共団体、健康保険組合、老人保健機関、 事業所、一方営利の病院、製薬会社、から構成される。 以下、それぞれの構成要素の機 能の概要について説明する。 さらなる詳細については、付録を参照されたい。 2.1.政府の機能([13][14]) 政府は、税金の再配分の機能をもっており、税金は、政府から保険組合、老人保険制度、 被保険者及び事業所の保険料補助へと流れている。 国民の税金は、間接税(主に法人税) と直接税(主に所得税)から構成されており、間接税3割に対して直接税が7割を占める。 次に、保険組合には、大きくわけて、被用者保険及び地域保険がある。 被用者保険に は、企業の従業員を対象とした健康保険、船員を対象とした船員保険、公務員と教員を対 象とした共済組合がある。 地域保険には、自営業者及び農業や漁業従事者及び無職の人 を対象とした国民健康保険がある。 以下、詳細に政府の機能を述べる。 政府の第1の機能は、税金を財源として、各保険組合に対し事務費及び給付費の一部を 補助することである。 政府の第2の機能は、市町村民税が課されない低所得者に対して保険料の補助をするこ とである。 政府の第3の機能は、老人保険制度に対して医療費の一部を補助することである。 医 療費の一部とは、医療費から患者負担分を除いた残りの3割である。 政府の第4の機能として、健康保険に関する法律の制定、改正を行うことがある。 具 体的には、総則「標準報酬」、被保険者・保険者の範囲、保険給付、費用負担「国庫負担、 被保険者負担額等」、不服申し立て、罰則などを決めることである。 こうした政府の機能がある理由は、低所得者、高齢者、疾病リスクの高い人が、医療保 険に低価格で加入でき、医療を安価で受けられるようにする為である。 2.2. 事業所及び被保険者の機能([13]) 事業所及び被保険者の機能は保険料を折半して、所属する各保険組合に支払うことであ る。 つまり事業所及び被保険者の保険料は、保険組合へ流れる。 事業所には、中小企業とその従業員が属する政府管掌保険組合、大企業とその従業員が 属する健康保険組合、船舶会社とその従業員が属する船員保険組合、各省庁とその国家公 務員が属する国家公務員共済組合、地方公共団体とその地方公務員が属する地方公務員等 共済組合、私立学校とその教職員が属する私立学校教職員共済組合がある。 こうした事業所及び被保険者の機能がある理由は、医療保険制度を支えるための保険料 を保険組合へ拠出する為である。 2.3. 各保険組合の機能([13]) 各保険組合の機能は、被保険者に対して保険給付を行い、病院へ診療報酬を支払い、老 人保険制度へ拠出金を支払うことである。 これらの業務は、政府からの補助金と、被保 険者と事業者からの保険料を元手に行われる。 つまり保険組合の保険料と国民の税金は、 病院及び老人拠出金へと流れる。 以下詳細に保険組合の機能を述べる。 保険組合の第1の機能は、保険給付を、医療以外の給付の分娩・育児、死亡、休業、災 害に対して支払うことである。 保険組合の第2の機能は、病院への診療報酬を、出来高払い制に基づいて支払うことで ある。 具体的には個々の診療行為に付けられた点数に単価の10円を乗じた額のことを 出来高払い制という。 保険組合の第3の機能は、老人保険制度へ、高齢者医療費から患者負担分を控除した7 割を拠出金として支払うことである。 保険組合の第4の機能は、政府からの事務費を元手にして保険組合を運営する事である。 こうした保険組合の機能がある理由は、被保険者及び事業所からの保険料と国民の税金 を再配分することで、高齢者、疾病リスクの高い人も他の被保険者と同じように、低料金 で医療を受けられるようにする為にある。 2.4. 老人保険制度の機能([13]) 老人保険制度の機能は、高齢者が医療サービスを受けた場合に、病院へ診療報酬を支払 うことである。 これらの業務は、政府及び保険組合の拠出金で賄われている。 つまり、 老人保険制度に拠出された保険料と国民の税金は、病院へと流れる。 以下詳細に老人保険制度の機能を述べる。 老人保険制度の第一の機能は、70歳以上の者および65歳以上70歳未満で障害認定 をうけた寝たきりの者が、医療サービスを受けた場合に、病院へ診療報酬を支払うことで ある。 老人保険制度の第二の機能は、政府及び保険組合からの拠出金を元手にして老人保険制 度を運営することである。 こうした老人保険制度の機能がある理由は、高齢者の加入割合が高くなり財政が圧迫さ れてきている保険組合、その中でも特に地域保険組合の財政負担を軽減する為である。 2.5. 病院の機能([13]) 病院の機能は、製薬会社から薬を購入し、患者に対して医療を行うことである。 資金 の流れは、患者負担金、保険組合及び老人保険組合の診療報酬が、病院及び病院を通して 製薬会社へ流れるのである。 以下詳細に病院の機能を述べる。 病院の第1の機能は、被保険者に対して医療サービス(投薬・医療)を行うことである。 そして、病院は、患者負担分医療費と、老人保険制度及び保険組合からの診療報酬を受け 取る。 病院の第2の機能は、厚生省がさだめた薬価基準価格に基づき、製薬会社から薬を購入 することである。 こうした病院の機能がある理由は、医療サービスを国民へ提供し、国民の健康維持に貢 献するためである。 2.6. 第2章のまとめ 第2章では、資金の流れからみた日本の健康保険制度の概要について述べた。 本概要 と付録により、、日本の健康保険制度は、国民全てに低価格な保険料で、安価に医療サー ビスを提供する目的で構築されているが、被保険者の保険料や国民の税金は、非営利の組 織である政府、保険組合、事務所、から営利の組織である病院及び製薬会社へ一方的に、 流出していくことが明白である。 次の章では、日本の保険制度の問題点を明確にし、な ぜ資金の流出に歯止めがかからないのかを述べる。 第3章:日本の保険制度の問題点の分析 3.1. 政府の機能に関する問題点 日本の保険制度は、強制加入であり、且つ応能原則に基づいて保険料が決められている ため、低所得者の負担が軽減され、疾病リスクの高い人も安い料金で加入でき、レセプト の処理体系が統一しているのはメリットである。 しかし、非営利の保険組合による医療 費抑制のインセンテイブ欠如、出来高払い及び薬価差益を生む保険制度が原因で、保険料 及び国民の税金が一方的に、営利の病院及び製薬会社へ流出している。 これが医療費の 膨張、ひいては患者負担額、保険料の高騰をまねく。 また疾病リスクに全く基づかない 保険料である為、被保険者派、保険料及び税負担に関しても不公平感を問題点を持つ。 以下詳細に、問題点を述べる。 3.1.1. 非営利主義による支出増 政府が、保険組合と老人保険制度を、非営利で運営している為、政府の補助金支払い額 が増大する。 その理由は、保険組合と老人保険制度が、非営利であり競争により淘汰さ れる懸念が無いため、投入された保険料や政府の補助金を、収支を合わせる為に効率的に 運用するインセンテイブに欠ける為である。 3.1.2. 出来高払い制と薬価基準制度による支出増 政府が、出来高払い制と薬価基準制度を容認してるので、保険組合及び老人保険制度の 財政が悪化する。その理由は、これらの制度によって、医師が、患者に対する診療及び投 薬を行えば行うほど、病院の利益になる為、保険組合及び老人保険制度への医療請求額を 増大させる傾向があるからである。 3.1.3. 老人保険制度の患者負担定額払いによる支出増 老人保険制度では、患者負担額が定額である為、医療費が膨張する。 その理由は、実際 にかかった医療費に患者負担が比例しないので、病気を予防しようとのインセンテイブが 働かず医療費が増大するのである。 例えば、 ”過去20年鑑に老人人口は2.5倍伸 びているが、この間に老人医療費の方は12倍の伸びを示している”と[16]に述べら れている。 3.1.4. 課税に対する不公平感 社会に対する貢献度の大きい人、企業の雇用者は、現行の課税方法にたいして不公平感を もっている。 具体的には、 第一に、課税上の尺度として、法人税や所得税のしめる割 合が大きい為、社会に対する貢献度の大きい人ほど税負担が重く不公平感を持つ。 第二 に、経費の優遇措置があるので実際の所得より少ない額しか税がかからない自営業者に比 べ、企業の雇用者のほうが所得全てに課税されている為、重税感を持っている。 3.1.5. 保険料に対する不公平感 被用者保険の加入者、地域保険の加入者、そして疾病リスクの低い人、それぞれ保険料 負担に関して不公平感を持っている。 その原因は、保険料設定方法が統一されてないこ と、応能原則に基づく保険料負担に上限があること、及び保険料が、疾病リスクに基づい てない為である。 具体的には、第一に、保険料設定方法の違いにより、地域保険の加入者の、保険料負担 が重くなることである。 それは、被用者保険の加入者の場合、保険料は、所得に応じ且 つ事業所が半額を負担するので、保険料が軽減されている為である。 しかし地域保険の 加入者の場合、保険料は、所得と世帯の人数に応じ、事業所による保険料の軽減がないの で、家族人数が多い場合、重い保険料負担となる為である。 第二に、応能原則に基づく保険料負担に上限があることによって、被用者保険の高所得 者の保険料が軽減されることである。 その理由は、被用者保険の場合、保険料は所得に 応じた標準報酬月額で決まるが、それには上限がある為である。 よって、高額所得者に なればなるほど保険料負担が軽くなるのである。 また賞与が所得に含まれない場合も保 険料負担が軽減される為である。 第三に、疾病リスクに基づいた保険料の設定でない為、疾病リスクの低い人にとっては、 保険料負担が重くなることである。 第一及び第二の原因に対して、”これらを打破するために所得能力に応じた負担を貫く とともに、統合論による必要があるという論がある。 具体的には、各保険組合で所得能 力に応じた負担を貫くと、各保険組合間の財政収入に格差が生まれる。 そうなると財政 の弱いところでは増収策を講じ被保険者負担は増大する。 そこで保険集団を一元化し、 所得能力に応じた負担で、給付は平等化していく統合論、つまり再分配機構の強化が唱わ れる。 それにより、負担能力に応じた負担ということでの公平化がはかられ、また給付 面における平等性が図られる”と文献[12]のp.p.154-161に論じられている。 しか し、この論では、疾病リスクの低い人ほど、保険料負担に対しての不公平感が残る。 か つ再分配機構の強化により、効率的に保険料を運用しようとするインセンテイブに欠ける。 3.1.6. 老人医療保険への拠出金に対する不公平感 また老人医療保険制度を支えているのが保険組合の保険料であり国民の税金であるため、 老人医療費が膨張すると、国民及び被保険者は、税負担及び保険料負担に対して不公平感 を持つ。 3.2. 事業所の機能に関する問題点 事業所があることによって、被保険者の保険料負担が軽減される事、及び強制加入によ って事業所の被保険者の保険料を多く集められることで、保険組合の財政が安定するのは、 メリットである。 しかし、事業所には、効率的に保険料を運用する保険組合を選択でき る権利が与えられていない。 その為、良質な医療及び適正な価格の医療に保険料が使わ れていてもいなくても、事業所の保険料は、所属保険組合へ流出する。 3.2.1. 非営利の事業所による支出増 保険料が、事業所から保険組合を通して病院及び製薬会社へ一方的に流れる為、保険料 が無駄に使われる。 その理由は、事業所が、保険に関しては営利を目的としていない ため、保険料が効率的に保険組合で、運用されてるか否かを考慮する必要がないからであ る。 3.2.2. 保険料に対する不公平感 保険給付内容はある程度一定であるにもかかわらず、事務所が所属する組合毎に、保険 料率が違うため、保険料負担に関して不公平感がある。 3.2.3. 所属外の保険組合に加入できない 事業所も被保険者も、保険料率や医療の給付内容によって別の組合の保険を選択できな い。 この理由は、政府が、事業所の所属する保険組合を、職種別と決めている為である。 3.2.4. 中小企業の経営圧迫 中小企業は、大企業に比べて、財政にしめる保険料負担割合が重くなる傾向にある。 その理由は、中小企業は、景気の変動の影響を受けやすく、よって財政的に不安定になり がちである為である。 3.3. 保険組合の機能があることによる問題点 保険組合及び老人保険制度は、政府の傘下にあるので、営利を目的とせず運営でき、保 健康保険の市場を独占できる。 また、営利目的の医療機関が収益を上げやすい、保険組 合及び老人保険制度となっている。 しかし、保険組合は、非営利である為、医療費を適 正化しようとするインセンテイブがなく、また出来高払い及び薬価差益による病院の営利 を求める体質により、保険組合に集まる保険料及び国民の税は、病院及び製薬会社へ一方 的に流れる。 以下詳細に問題点を述べる。 3.3.1. 非営利主義による支出増 保険組合は非営利故、保険組合間の競争が無く、どの保険組合も、医療費を適正化し税 金及び保険料を有効に使おうと尽力しない為、営利目的の医療機関へその資金が流出する。 具体的には、保険組合及び老人医療保険制度は、出来高払い制や薬価基準制度を容認して おり、病院からの医療費の過剰請求があっても、拒むことなく支払っているのである。 例えば、”診療の内容が過剰と思われるレセプト(医療費請求書)が、健康保険組合の場 合、全体の1/3にも及ぶ”と[10]に述べられている。 出来高払い制とは、医師が医療を行えば行うほど医療費を保険組合に請求できる制度の ことである。 薬価基準制度とは、医師が投薬を行えば行うほど、薬の原価と薬の基準価格の差である、 薬価差益を得られる制度のことである。 3.3.2. 保険料に対する不公平感 保険組合の保険料が、老人保険制度への拠出金として使われるので、保険組合の被保険 者は、保険料負担に対して不公平感を持つ。 例えば、”平成7年度の老人医療費は、8兆9000億円である。 この内、患者の自 己負担は5%で、税金が31%、そして保険組合からの拠出金が64%も占められている。 この拠出金は、保険組合の保険料で賄われている。” と[10]に述べられている。 3.4. 第3章のまとめ 以上を総ずると、日本の健康保険制度の問題点は、第一に、非営利の組織から営利の組 織へと、保険料及び税金が一方的に流出する点である。 その原因は、病院が、出来高払 い制及び薬価差益によって利益を得られる体質と、非営利の保険組合が、医療費を適正化 しょうとするインセンテイブを持たない為である。 第二に、課税及び保険料に対する不 公平感をもたらす制度であり、その原因は、課税に関しては直接税の割合が高いこと、保 険料に関しては疾病リスクに基づいてない為である。 では次に、クリントン案の概要及び資金の流れを明らかにし、非営利から営利への資金 の流出を、市場原理の一部導入によって、抑制しようとした米国のクリントン案について 述べる。 そして、クリントン案を参考に、日本の医療保険制度を今後どのように改善し てゆけばよいかを提言する。 第4章:クリントン案の概論 本論では、クリントン案の概論についてのべる。 米国の階保険制度には、政府・州、国家医療委員会、病院、保険会社、医療保険購入共 同組合、事業所、被保険者、製薬会社、公的医療保険制度、メデイケイド、から構成され る。 それぞれの構成要素の機能について説明は、文献[1]及び[5]に詳しく述べら れており、以下要旨を述べていく。 それぞれの構成要素の機能について説明([1][5]) 4.1. 政府・州の機能 政府の機能は、国民の税金を基に、医療保険購入協同組合、公的医療保険制度、零細企 業、低所得者へ援助をおこなうことである。 つまり国民の税は、医療保険購入協同組合、 公的医療保険制度、被保険者及び事業所の保険料補助へと流れる。 以下、詳細に政府の機能を述べる。 政府の第一の機能は、税金を財源として、医療保険購入協同組合、公的医療保障制度(メ デイケア)、零細企業、低所得者を補助することである。 例えば、企業負担の保険料の 上限は、被用者給与の7.9%であり、残額は政府が補助をする 第二に、政府は医療保険購入協同組合を(人口が多い州には幾つかの地域に)設立し、 州が運営をする。 医療保険購入協同組合とは、被保険者が保険を得るために仲介を行う 機関である。 こうした政府・州の機能がある理由は、低所得者、高齢者、疾病リスクの高い人が、医 療保険に低価格で加入でき、医療を安価で受けられるようにする為である。 4.2. 国家医療委員会の機能 国家医療委員会は、政府の傘下で、医療市場全体を監視する。 特に、州政府、医療保 険購入協同組合、医療給付、医療に関する情報公開、医療費、医薬品価格、に関して監視 をすることである。 そして国民の税金は、国家医療委員会の運営にも使われる。 以下、詳細に国家医療委員会の機能を述べる。 国家医療委員会の第一の役割は、州政府や医療保険購入協同組合の活動の監督をするこ とである。 国家医療委員会の第二の役割は、各地域毎に年間医療費に対して上限を設定することで ある。 国家医療委員会の第三の役割は、医療給付に関しては、標準的な医療給付内容の検討を し、技術進歩に対応しての医療給付拡大の勧告をすることである。 国家医療委員会の第四の役割は、各医療ネットワーク毎の評価情報を標準化し公表する 事である。 国家医療委員会の第五の役割は、医薬品価格を継続的に監視し、価格上昇が異常だと判 定した場合には、医薬品会社に強力な圧力を加えることである。 こうした国家医療委員会の機能がある理由は、市場化した部門を監視し、医療費の高騰 を抑制する為にある。 4.3. 保険会社の機能 保険会社は、医療プランを作り、医療保険購入協同組合及び大企業へ提示することであ る。 そして、保険会社に集まった保険料は、優良な病院へ流れる。 以下、詳細に保険会社の機能を述べる。 保険会社の第一の機能は、医療の質の向上と医療費の適正かを図ろうとする優良な医 師・病院を選定しネットワークを組み医療プランを作り、その医療プランを医療保険購入 協同組合や大企業に提示することである。 保険会社の第二の機能は、 地域料率と家族構成に基づいた保険料を徴収し、加入申込 者全員を受け入れることである。 そして加入者が重病になっても契約更新を保障し、疾 病リスクによる割増料金や加入拒否をしないことである。 保険会社の第三の機能は、伝統的出来高払いの保険の他に、定額保険料の事前払い、つ まりマネジド・ケア的手法をもつ保険を導入することで、医療の質と効率性の向上に尽力 することである。 マネジド・ケアとは医療の質を確保しつつコスト節約を達成する仕組 みのことである。 例えば、医療費節約の方法として、入院日数事前査定、入院中診療内 容審査、強制セカンド・オピニオン(手術前に主治医以外の第三者の専門家に意見を求め ること)、外来手術の奨励である。 こうした保険会社の機能がある理由は、各病院の医療の質及び価格を競わせることで、 医療の質の向上と価格の抑制をめざす為である。 4.4. 医療保険購入協同組合の機能 医療保険購入協同組合の機能は、優良な医療プランを認定し、企業及び被保険者へ提示 することである。 また、病院の医療費及び医療プランの保険料の高騰を抑制し、医療 保険の情報公開をすることである。 そして医療保険購入協同組合に集まった保険料は、 認定した医療プランをもつ保険会社へと流れる。 以下、詳細に医療保険購入協同組合の機能を述べる。 医療保険購入協同組合の第一の機能は、各地域の保険会社と病院が提携して構築した最 低三種類の医療プランの認定と契約を行うことである。 医療保険購入協同組合の第二の機能は、中小企業(事業所)や個人(被保険者)や医療 保険購入協同組合に加入を希望した大企業(事業所)に対して最低三種類の医療保険の提 示を行うことである。 医療保険購入協同組合の第三の機能は、各事業所と被保険者から保険料を徴収し、その 保険料を各保険会社へ支払うことである。 医療保険購入協同組合の第四の機能は、病院に対しては、医療サービス料金の交渉を行 うことである。 また医療プランに対しては、保険料値上げが連邦政府が決定した上限を 超えないように監視することである。 医療保険購入協同組合の第五の機能は、個々の医療保険の実績データーの収集と被保険 者への公表を行うことである。 こうした医療保険購入協同組合の機能がある理由は、各保険会社の提携した医療プラン の質及び価格を競わせることで、医療の質の向上と価格の抑制を目指す為である。 4.5. 事業所の機能 事業所の機能は、医療プランを購入し、従業員へ提示する。 そして保険料を、医療保 険購入協同組合を通して保険会社へ支払うことである。 以下、詳細に事業所の機能を述べる。 事業所の第一の役割は、大企業が、保険会社から最低三種類の医療プランを購入し、従 業員へ提示することである。 中小企業及び医療保険購入協同組合に加入している大企業 の場合は、医療保険購入協同組合から最低三種類の医療プランを購入し、従業員へ提示す ることである。 事業所の第二の役割は、大企業及び中小企業が、被用者に連邦が定める標準医療を上回 る給付の医療プランを従業員へ提示できることである。 事業所の第三の役割は、大企業が、企業負担分の保険料8割と従業員負担分の保険料2 割を、保険会社あるいは医療保険購入組合へ支払うことである。 中小企業の場合は、企 業負担分の保険料8割と従業員負担分の保険料2割を、医療保険購入組合へ支払う。 こうした事業所の機能がある理由は、 医療保険制度を支えるための保険料を保険組合 を通して保険会社へ拠出する為である。 4.6. 被保険者の機能 被保険者の機能は、医療プランに加入し、保険料を医療保険購入協同組合あるいは保険 会社へ支払う事である。 そして被保険者の保険料は、事業所及び保険組合を通して保険 会社へ流れる。 以下、詳細に被保険者の機能を述べる。 被保険者の第一の機能は、 医療保険購入協同組合と契約している大企業の従業員と中 小企業の従業員の場合、提示された医療プラン(出来高払い、定額払い、折衷型)三種類 の中から一つを選択・購入し、保険料を所属企業を通して医療保険購入協同組合へ支払う ことである。 保険会社と直接契約している大企業の従業員の場合、提示された三種類の 医療プランの中から一つを選択・購入し、保険料を所属企業を通して保険会社へ支払う。 被保険者で無職の者や自営業者の場合は、提示された医療プランを三種類の中から一つを 購入して原則として個人で保険料を全額支払う。 被保険者の第二の機能は、被保険者が、医療サービスを受けた場合、患者負担分の診療 費を支払う事である。 こうした被保険者の機能がある理由は、医療保険制度を支えるための保険料を保険組合 を通して保険会社へ拠出する為である。 4.7. 病院の機能 病院の機能は、製薬会社から薬を購入し、医療サービスを患者へ提供することである。 そして、患者負担金、保険会社及び公的医療保険制度の診療報酬は、病院へ流れる。 以下、詳細に病院の機能について述べる。 病院の第一の役割は、被保険者に対して保険の種類別に医療を提供するが、最低でも標 準医療は提供する事である。 その対価として、病院は、保険会社へ患者負担分を除いた 医療費を請求する。 病院の第二の役割は、製薬会社から薬を購入しその薬代を支払うことである。 こうした病院の機能がある理由は、医療サービスを国民へ提供し、国民の健康維持に貢 献するためである。 4.8. 第4章のまとめ 以上を総ずると、クリントン案の場合は、保険会社が、各病院の医療の質及び価格を競 わせることで、医療の質の向上と価格の抑制をめざす。 また医療保険購入協同組合は、 各保険会社の提携した医療プランの質及び価格を競わせることで、医療の質の向上と価格 の抑制を目指す。 つまり、保険会社が病院を選定する機能を持ち、医療保険購入協同組 合が保険会社を選定する機能を持つことで、保険会社から病院への資金の流れを適正化し ようとしたのである。 また伝統的出来高払い制の保険の他にも、定額払い制の保険(マ ネジド・ケア)も導入し、医療費の膨張を抑制しようとした。 しかし、クリントン案で は、非営利の医療保険購入協同組合から、営利の保険会社へ保険料を支払う過程において は、資金の流れを抑制する機能がない。 そこで、次のクリントン案の利点と問題点の章において、その原因について述べる。 第5章:クリントン案の問題点 本章では、クリントン案の問題点について述べる。 5.1. 政府・州があることによる問題点 強制加入であり、且つ地域料率に基づいて保険料が決められている為、疾病リスクの高 い人も一律の料金で加入でき、 政府からの補助がある為、高齢者及び低所得者も安い保 険料で保険に加入でき、安価で医療サービスを受けられる。 また政府が、保険の標準医 療給付内容を決める為、被保険者は様々な医療サービスを受けられる。 これらは、メリ ットである。 しかし、非営利主義による医療費抑制のインセンテイブが欠如してる為、 国民の税金は、医療保険購入協同組合を通して保険会社及び病院へ流出する。 また保険 料が疾病リスクに基づいてないので、医療費が膨張し保険料が医療費につぎ込まれると、 疾病リスクの低い人は不公平感を持つ。 以下詳細に問題点を述べる。 5.1.1. 非営利主義による支出増 州が、医療保険購入協同組合を非営利で運営している為、保険料及び国民の税金が営利 の保険会社へ一方的に流出する可能性がある。 その理由は、第一に、医療保険購入協同 組合は、保険会社や病院のよう選別されないので、市場で淘汰される心配がなく、保険料 や国民の税金を、収支を合わせる為に効率的に運用しようとするインセンテイブに欠ける。 そして、財政が悪化すれば保険料及び国民の税金を投入しようとする為である。 第二に、 非営利故、良い医療プランを選ぼうとするインセンテイブに欠ける医療保険購入協同組合 と医療プランとの癒着が起こる可能性があり、その場合には一方的に保険料や国民の税金 が営利の組織に流出する。 5.1.2. 課税に対する不公平感([8]) 政府の税の配分に対して、不公平感がでる。 まず州が医療保険購入協同組合を構築し たり運営するにあたり州の補助がかさむと税負担者は重税感をもつ。 次に、高齢化や不 況などで、低所得者や年金生活者や零細企業に対する政府の保険料補助金が増加すると、 かってメデイケイドに拠出していた政府資金の額では不足する可能性があり、財源確保の 為に増税となると国民の税負担が重くなる。 そして、医療保障の財源に充てられるのが 主に事業所の税や所得税の場合、社会に対する貢献度の大きい者ほど税負担が大きくなり、 不公平感がでる。 5.1.3. 保険料に対する不公平感 保険料が、疾病リスクに基づいてないので、医療費が膨張し保険料が医療費につぎ込ま れると、疾病リスクの低い人は、疾病リスクの高い人に比べて、保険料負担に不公平感を 持つ。 また低所得者、世帯人数の多い人、零細雇用主、それぞれ保険料負担に関して不 公平感を持っている。 それは、保険料が、地域料率と家族構成に基づいているので、高 所得者や世帯人数の少ない人に比べて低所得者と世帯人数の多い人と零細雇用主にとって は所得にしめる保険料負担割合が重くなっている為である。 5.1.4. 保険料の設定ミスによる財政赤字拡大懸念 連邦議会の議会予算局が、クリントン案の連邦財政に与える影響を推計した結果、零細 雇用主や各世帯にたいする保険料補助金が増加し財政赤字が拡大すると結論づけた。 具 体的には、議会予算局によると、クリントン案による保険料補助金の財源は、メデイケア にたいする支払い率の引き下げやメデイケイド廃止により一時的には確保できるとした。 しかし、クリントン案が前提とした保険料が低すぎる為、零細雇用主やフルタイム就業者 がいない世帯に対する補助金が増え、財政赤字が増大すると結論づけた。 そこで、かり に、保険料を高くしたとしても、低所得者や零細雇用主にたいする連邦政府の補助金がさ らに増加すると試算したのである。 5.2. 国家医療委員会があることによる問題点 医療市場全体を監視し、医療費、医療給付の適正化を図り、加入者へ医療保険の情報を 提供することで良質な医療保険のニーズを高める、こうしたメリットがある。 しかし、 国家医療委員会を創設し運営するために、国民の税金が投入され、年間保険料に上限が設 定される為、医療の質の低下が懸念される。 以下詳細に問題点を述べる。 5.2.1. 税及び保険料負担に対する不公平感 税及び保険料負担者が不公平感を持つことである。 例えば、国家医療委員会の制度を 構築し維持するのに政府の税金が多く投入されることに対して、税負担者が負担に感じる。 また技術進歩に対応して医療給付の拡大を勧告する為、保険料に給付拡大による医療費 が転嫁されることに対して、保険料負担者が負担に感じる。 5.2.2. 薬・医療の質の低下 薬や医療の質が低下することである。 その理由は、第一に、医療費の伸びが年間医療 費に強制的に上限を設定する方法、グローバル予算で抑制されることで、費用のかかる新 薬の開発が抑制され、低価格で、質の落ちる薬が出てくる為である。 第二に、医療費の 伸びが抑制されることで、 医療サービスの内容が現状維持に傾いたり、あるいは安かろ う悪かろうの医療や給付が提供される懸念がある為であると文献[6]のP.25に記されて いる。しかし、国民医療費に影響を与える要因は様々(人口増加率、年齢構成、医療従事 者の数と質、医療技術の進歩、健康に影響を与えるライフスタイル等)であり、医療費の 適正水準を人為的に決定する事は不可能であるといわれている([5]P.96)。 5.2.3. 医療情報提供に対する懸念 医療側の情報をどこまで開示するか、プライバシーの保護の問題がある。 5.3. 保険会社があることによる問題点 保険会社は、質のよい医療と適正な医療を提供する病院を選定し、医療プランを作り、 その医療プラン間で競争が行われるため、医療の質の向上と医療費の抑制が行われる。 また政府の税金の投入がない為、疾病リスクの低い国民の税負担に対する不公平感が無く なる。 しかし、医療プランとして選定された保険会社は、医療費抑制のインセンテイブ を欠く医療保険購入協同組合から、一方的に保険料を獲得できる。 以下詳細に問題点を 述べる。 5.3.1. 非営利主義が残存することによる支出増 保険会社は営利を目的としているが、一方医療保険購入協同組合は、非営利であるため、 医療費抑制のインセンテイブを欠く。 その理由は、医療保険購入協同組合が、より医療 費削減効果のある質のよい医療プランを獲得することで収益を上げることができるなどの インセンテイブが無いためである。 その為、医療プランとして選定された保険会社は、 医療保険購入協同組合から、医療プランに医療費抑制効果があろうが無かろうが、一方的 に保険料を獲得できる。 結果として保険会社と病院へ保険料が流出する。 5.3.2. 医療の質の低下 保険会社は、経営効率と収益を考えるあまり、低価格だが質の悪い医療を提供する可能 性がある。 また低価格の薬が求められ、高価な新薬の開発が阻害される可能性がある。 5.3.3. 中小の保険会社の経営圧迫([5]) 中小の保険会社が経営難になる可能性がある。 その理由は、第一に、市場原理の導入 で、医療保険購入協同組合に認定される医療プランを構築できない保険会社は、淘汰され 競争へのインセンテイブをなくす。 結局、医療プランとして契約を取れる保険会社が固 定化する可能性がある。 第二に、中小の保険会社は、医療保険購入協同組合に認定され る医療プランを構築できたとしても、経営難になる可能性がある。 それは、保険料の上 限設定、経験料率(疾病リスクに応じた保険料)の禁止がある為、リスクの高い加入者が 集まった場合、支払い保険金増で経営が圧迫されるからである。 5.3.4. 保険会社の負担増 保険会社の事務費と診療費支払い増加の可能性がある。 その理由は、第一に、最低三 種類の医療プランがあり、病院への診療費の支払い方法がそれぞれ異なるため、保険会社 の事務が煩雑になる為である。 第二に、疾病リスクの高い人は出来高払いの保険を選ぶ 傾向にあり、その場合、保険会社の支払い医療費が増す為である。 5.4. 医療保険購入協同組合があることの問題点 保険料と医療費の高騰に対する監視がある為、低所得者及び零細雇用主が安価で保険に 加入でき、医療保険の情報公開がある為、被保険者が良質な医療プランを選べ、定額払い 保険もある為、医療費の節減ができ、医療プランの保険料徴収事務及び販売業務が代行さ れる為、保険会社の経費が節減できる。 しかし、医療保険購入協同組合間では、質のよ い価格の適正な医療プランを購入した医療保険購入協同組合が市場で選ばれるという競争 がない為、医療費削減効果に欠けた質の悪い医療プランを選択する可能性があり、また医 療プランが固定化される可能性がある。 そして、出来高払い制の支払い方法が残ってお り、その場合は、医療費が医療保険購入協同組合から保険会社及び病院へ一方的に流出す る。 特定の保険会社へ、保険料が一方的に流れる可能性がある。 以下詳細に問題点を 述べる。 5.4.1. 非営利主義による支出増 医療保険購入協同組合は、市場での加入者獲得の競争が無く、医療費の抑制効果のある 質の高い医療プランを選び、加入者を増やそうとするインセンテイブが働かない。 その 結果、税金及び保険料が、医療費抑制効果のない質の悪い医療プランに流れる可能性があ る。5.4.2. 非営利主義による保険の質の低下 医療保険購入協同組合は、営利を目的としてないため、被保険者を増やし本当に医療費 削減効果のある質の良い医療プランを認定するインセンテイブに欠ける。 その結果、医 療保険購入協同組合と保険会社の間で癒着が起これば、医療プランが固定化する可能性が ある。 そうすると認定されない保険会社は、競争をして良い医療プランを作ろうとする インセンテイブがなくなる。 結果として医療プランの質が低下する。 5.4.3. 保険料に対する不公平感([5]) 現在のメデイケイド受給者、重病で今まで医療保険に加入できなかった人々、医療リス クの高い早期退職者が、医療プランに加入する事ができる反面、他の被保険者全体に、彼 らの医療費が保険料の形で転嫁されることになる。 5.4.4. 医療プラン選択の偏りによる支出増([5]) 三種類の医療プランの内、出来高払い医療プランの選択に偏りがでることによって支出 が増加する。 その理由は、疾病リスクの高い人は、高度医療を制限無く受けられる出来 高払いの医療プランをを選ぶ傾向にあり、そうすると医療費支払いが増大することになる のである。 5.4.5. 被保険者のニーズに適合しない医療プランの提供 医療保険購入協同組合が医療プランを選定するので、地域の被保険者の多様なニーズに 合った保険で無い場合がある。 5.4.6. プライバシー侵害の問題 被保険者に対して医療保険の実績データーを公表するわけだが、プライバシーの保護の 観点からも、どこまで医療情報を開示するのかが問題になる。 5.4.7. 保険会社の経営圧迫([5]) 保険金支払い事務の機能を奪われる保険会社や保険販売ブローカーの倒産が増える。 5.5. 事業所があることによる問題点 事業所がが保険料の一部を負担する為、従業員の保険料負担が軽減され、各事業所が各 医療保険購入協同組合へ所属する為、組合は多くの被保険者を集められ保険組合の財政が 安定するメリットを持つ。 しかし、事業所は、事務所が位置する地域の医療保険購入協 同組合に対して、保険料を支払わなくてはならない。 結果として、事業所が、医療費削 減効果の無い医療プランを選択した医療保険購入協同組合に所属してると、事業所の保険 料の支出が増える。以下問題点を詳細に述べる 5.5.1. 非営利主義による支出増 事業所は、保険業務に関しては、非営利であり、医療保険購入協同組合を選定する権利が 無いため、所属の保険組合が、医療費削減効果のある質のよい医療プランに保険料を拠出 していてもいなくても、保険料を支払わなくてはならない。 結果として、医療費削減効 果のない医療プランを提供する医療保険購入協同組合に所属していると事業所の保険料の 支出が増える。 5.5.2. 保険料負担の不公平感([5]) 保険料負担に関する不公平感が大企業及び個人加入者にあることである。 具体的には、 医療保険購入協同組合に加入した大企業の場合、企業負担の保険料の上限が被用者給与の 7.9%という政府からの補助は受けられないのみならず、1%の給与税がかけられる。 そして個人の加入者の場合、標準医療を上回る給付の医療保険を購入すると保険料が自己 負担となる。 5.5.3. 中小企業の経営難([7]) 中小企業の財政に悪影響を与える場合がある。 具体的には、第一に、医療費が増大し 保険料が高くなった場合、政府の補助があっても保険料負担に耐えられない中小企業が出 てくる可能性がある。 第二に、今まで医療保険を提供してなかった中小企業の雇用主が 保険料負担を強制された場合、コスト増加分を支払い給与や従業員の福祉給付のカット、 レイオフ、人員削減で相殺しようとし、結果として低所得者層の雇用を奪う可能性がある。 5.5.4. 被保険者の選択の制限 被保険者のニーズにあった別の医療保険購入組合の保険を選択できる可能性がない。 5.6. 第5章のまとめ 以上を総ずるとクリントン案では、問題点として、第一に、非営利の医療保険購入協同 組合は、他の組合との加入者獲得競争が無いため、本当に医療費削減効果のある医療の質 の良い医療プランを購入しようとするインセンテイブに欠ける。 そして医療費削減効果 の薄い質の悪い医療ぷらんが、医療保険購入協同組合で認定されると、必然的に医療保険 購入協同組合から営利目的の保険会社及び病院へと資金が流出し医療費の膨張が抑制しに くくなる。 第二に、病気の症状に応じて定額、出来高の支払い方法を設定した保険でな く、どの症状にも適用される伝統的な出来高払い制の保険が残っている為、医療費増大の 可能性がある 第三に、疾病リスクに基づかない保険料であるため、疾病リスクの低い人 には、不公平感がでる事である。 しかし、クリントン案では、今まで、市場原理が導入 可能で無かった医療保険に、一部市場原理を導入し、医療費削減の可能性を求めた。 そこで、次に、クリントン案では、どのようにして医療保険に市場原理の導入を可能に したのかを分析する。 第6章:医療保険に市場原理の導入が可能になった理由の分析 本章では、医療保険に市場原理の導入が可能になった理由の分析についてのべる。 6.1. 市場原理を導入した場合の医療保険の問題点 公共性が求められる医療保険の場合、市場原理を導入した時に問題になるのは、社会的 弱者をどう保護していくかということである。 その理由は、”市場原理を導入している 任意保険の場合疾病リスクの高い人に対しては、加入拒否あるいは割り増し保険料を求め、 低所得者対しても、所得に係わらず疾病リスクに応じた保険料を求める必要がある”と文 献[11]のP.P.117-119に記されている。 しかし、”医療保険の場合は、国もしくは 地方公共団体が、公的な施策として行う社会保障であり、国民全てに、普遍的に適用され るものでなくではならないのである。 そして、疾病にたいして保護・救済を図り、少な くとも最低限の生活の安定を保障する為の制度でなくてはならない”と文献[15]の P.P.217-226にある。 こうした制度である為、市場原理を医療保険に導入した場合、疾 病リスクに基づく加入拒否、割り増し保険料、低所得者及び高齢者の救済をどう解決する かが問題になる。 クリントン案では、こうした点を、どう解決しようとし、市場原理の 導入を一部可能にしたのかを以下に述べる。 6.2.市場原理を導入可能にしたクリントン案のポイント 医療保険に、市場原理の導入を可能にした理由は、クリントン案では、政府の市場にお ける規制を強化した為である。 これを管理された競争、マネジド・コンペテイションと 呼んだ。 以下、規制の強化内容について述べる。 6.2.1. 保険料の設定方法を規制 保険会社への規制を厳しくしたことである。具体的には、保険会社へ、加入希望者の加 入拒否及び疾病リスクの高い人に対する割増料金を禁止し、保険料は地域料率に基づき一 律にしたことである。 その理由は、市場原理に基づく任意保険であれば、低所得者や疾 病リスクの高い人々が、加入拒否にあったり割高な保険料で保険に加入できなかった。 その為、クリントン案の市場原理の導入にあたっては、そうした人々も保険に加入できる ように、政府の保険会社への規制を強化し、加入希望者の加入拒否や、割り増し保険料は 違法とし保険料を一律としたのである。 6.2.2. 診療報酬決定方法 マネジド・ケア的手法を導入したことである。 これは出来高払い制の伝統的医療保険 と違い、定額保険料の事前払いすることである。 その為、過剰医療のコストを病院及び 医師が自ら負担しなくてはならないので、コスト節約のインセンテイブがはたらくのであ る。 例えば、”マネジド・ケアには、入院日数事前査定、入院中診療内容審査、強制セ カンド・オピニオン(手術前に主治医以外の第三者の専門家に意見を求めること)、外来 手術の奨励などがあると文献[5]のP.126に述べられている。 こうした定額保険は、すでに米国の保険会社で導入されている。 その定額払いの保険 を導入した米国の民間保険会社の医療費削減例を、次に述べる。 ”現在、国民階保険を 持たない米国では民間保険会社が膨張する医療費に徹底したコスト管理を持ち込み医療の 効率性を追求している。 それは出来高払い制に代わる定額払い制である。 ある保険会 社での医療管理に徹底的なコスト管理例であるが、加入者から集められた保険料は、指定 の医療機関に決まった額が配布され、医師はこの範囲で検査、手術、投薬を行わなくては いけないとされている。 つまり保険会社が定めた病気毎の治療ガイドライン(入院日 数、効果的な薬の使い方等)が定められていて、 医師はそれにそって治療を行うのであ る。 結果として医師が使う薬を管理した結果、北カリフォルニアだけで30億円の薬剤 費削減されたのである”と[10]に述べられている。 6.2.3. 保険料の値上げを規制 政府が、医療プランに対する規制を強化したことである。 具体的には、医療保険購入 協同組合が、各保険会社が地域の病院と提携して構築した医療プランにおいて、年間保険 料の値上げを厳しく監視し、各保険会社の医療プラン間で競争を行わせるのである。 こ の競争は価格競争であり、各医療プランの総合的な医療サービスに対する年間保険料が競 争の対象となる。 そして、医療費の効率を追求している医療プラン同士が競争すること で医療の質の向上に強いインセンテイブとなる。 6.2.4. 年間医療費を規制 マネジド・コンペテイションによる医療改革を実施しても国民医療費の増加率が低下し なかった場合に、国家医療委員会が、グローバル予算の導入、つまり年間医療費に対して、 強制的に上限を設定するとした。 6.2.5. 被保険者の保険の選択権を制限 消費者にかわって医療プランを賢く導入するための代理人として、地域医療保険購入組 合の設置を提案したことである。 6.3. 第6章のまとめ 以上を総ずると、医療保険に市場原理を導入すると、市場原理に基づく任意保険の問題 点である社会的弱者を保護できない点を改善する為に、保険会社にたいする規制を強化し て社会的弱者を保護しようとした。 そして、保険会社及び病院の間で競争が行われる市 場原理を医療保険に導入し医療費を抑制しようとしたのがクリントン案である。 そこで、次に、クリントン案は、日本の現行制度のどの点を市場化したことになるのか を第7章で分析する。 第7章:クリントン案は、日本の現行制度のどの点を市場化したことになる のか クリントン案が市場化した点は、病院、保険会社、医療保険購入協同組合の機能である。 第一に、各保険会社に、優良な病院を選別し契約する機能を与えることによって、各病 院に医療費の削減と医療の質の向上を競わせた点である。 いいかえれば、各保険会社は、 それぞれ優良な病院と契約し医療プランを構築する。 その医療プランの間で競争を行い、 病院の医療の質の向上と医療費の抑制を目指すのである。 第二に、医療保険購入協同組合に、医療プランの選択権を与え、医療プラン間の競争を 促すことを目指したのである。 以上の2点が、日本の現行制度にあたる点は、保険組合と病院の機能の市場化である。 具体的には、保険組合の組織を二分割し、一方の組織には、優良な病院を選別し契約する 機能を与えたことである。 それにより病院は契約を取るため、医療の質の向上と医療費 の削減をめざすことになる。 もう一方の組織には、優良な病院と契約した組織の内の幾 つかを、選択する機能が与えられたのである。 それは、前者の組織が質の良い医療と医 療費の抑制を行う病院と提携するように、競争を促す為のものであった。 第8章:現状の日本医療保険制度及び米国クリントン案を踏まえた 医療保険制度の将来案 現行の日本の医療保険制度及び米国のクリントン案の共通な問題点である非営利から営 利への資金の流れを断ち、そして保険料や税金の負担に公平感を是正し、医療費の抑制と 医療の質の向上を可能とする一方、公共性を踏まえた医療保険制度の将来像を以下に述べ る。 8.1.政府の以下の機能を提言 8.1.1. 税金の負担の公平化([8]) 現行の税金負担に対する不公平感を改善するために、現行の所得税の比率をさげ、生活 必需品を除く商品やサービスに対して消費税率をあげる。 8.1.2. 患者負担額の公平化 疾病リスクの高低による不公平感をなくすために、診療費患者負担額は、患者負担額は 定率(高齢者も含む)とする。 8.1.3. 保険料負担の公平化 保険料は所得に応じた額とし、標準報酬月額の上限をあげ、高齢者も所得に応じた保険 料負担をする。 というのも”高齢者の間には経済的格差がかなりあり、高額所得者の中 には、最高所得税率2000万に該当する人々が15%も存在するからである”と文献[9] のP.233に述べられている為である。 これにより現行の日本の健康保険制度やクリント ン案と社会保険に共通した問題である保険料や税負担の不公平感が軽減される。 また疾病リスクの低い人の不公平感を軽減するためにも保険料を割り引く制度を設ける。 8.1.4. 組合保険会社への規制 逆選択を防止する為にも、保険は、強制加入とする。 また疾病リスクの高い人が極端 に高い保険料を課せられたり加入拒否にあわないように、加入拒否や割り増し保険料を禁 止する。 保険料は所得に応じた額とし、標準報酬月額の上限をあげ、高齢者も所得に応 じた保険料負担をする。 というのも高齢者の間には経済的格差がかなりあり、高額所得 者の中には、最高所得税率2000万に該当する人々が15%も存在するからである[9]。 保険内容に関しては、急性の病気に対しては出来高払い、慢性の病気に対しては定額払 いの折衷型のとする。 これは、急性の病気を定額払いとすると、急性の病気になった時 点で充分な医療が受けられない可能性があるからである。 また慢性の病気は、症状が、 ある程度安定しているので、定額払いとすれば、過剰な医療及び投薬が抑制されるのであ る。 それにより医療費の抑制が可能となる。 8.1.5. 保険料の補助 政府は、高齢者、低所得者、高額療養者、零細企業に対する保険料補助を行う。 これ は、医療保険の公共性を維持する為にも、所得に占める保険料負担が重くなる人々に対し て援助をおこなうことを目的としている。 8.1.6. 市場原理を導入することによる支出抑制 非営利の保険組合(米国では地域医療保険購入協同組合)や老人医療保険制度やメデイ ケアをなくし、営利の保険組合の市場を構築する。 つまり、被保険者に保険組合を選 ぶ権利を与えることによって、各保険会社は、加入者を増やすためにも、より医療の価格 と質の良い医療プランを購入しようとする。 その結果、無駄に保険料や国民の税金をつ かう医療プランを淘汰しようとするインセンテイブが働くので、資金の営利組織への流出 が阻止される。 8.2. 医療プラン作成会社の提言 8.2.1. 市場原理を導入することによる支出抑制 各医療プラン作成会社は、良質な病院及び製薬会社を選定し提携して、医療プランをつ くる。 そして、保険組合に医療プランを購入してもらえるよう他の医療プランと競争を 行う為、病院や製薬会社の薬や医療の質の向上及び価格の抑制がめざされる。 結果として、現行の日本の医療保険制度の問題点である病院が製薬会社から直接薬価 差益を得る為に過剰投薬をすることや、病院の過剰医療を阻止できる。 ひいては保険料 や税金が無駄に病院や製薬会社に流れ使われることがないので支出抑制される。 8.3. 組合保険会社の提言 8.3.1. 営利の組合保険会社による医療費抑制 各組合保険会社は、営利を目的とし、政府からの補助は受けないこととする。 そして、 被保険者に、組合保険会社を選択する権利を与えることで、組合保険会社は、加入者を集 める為にも他の組合保険会社と競争して、より医療の質のよい医療費の抑制効果のある医 療プランを購入しようとする。 そうすることで、組合保険会社に集まった保険料や国民 の税金が、無駄の多い医療プランつまり病院や製薬会社へ流出することを阻止できるので ある。 結果として医療費が抑制されるのである。 8.3.2. 民間保険会社によるインセンテイブ 保険組合会社の市場へは、医療監視委員会が認可すれば、民間の保険会社も保険組合会 社の市場に参入可能とする。 それによって各保険組合会社は、民間の保険会社が参入す ることで、市場で淘汰されないよう経営効率を上げ、より市場でニーズのある医療プラン を獲得しようとする。 8.4. 医療監視委員会の提言 8.4.1. 医療プラン作成部門に対する監視 医療監視委員会は、医療プラン政策部門の中で公正な取引がなされてるか否かをチェッ クする。 また各保険組合会社が、公正に医療プランを購入してるか否か、また購入され た医療プランが一定水準を保っているか否かもチェックする。 こうすることで、クリン トン案の医療保険購入協同組合と保険会社の癒着による医療プランの固定化がさけられる。 8.4.2. 組合保険会社に対する監視 医療監視委員会は、各組合保険会社の財政状況及び活動を監査し、また保険組合会社の 市場に参入を希望する保険会社の認可をする。 これは、第一に、加入者保護の観点から も、財政の安定していない中小の保険会社が、保険組合市場に参入し経営破綻することを 阻止するためである。 第二に、組合保険会社が特定の医療プランと癒着が無いかを監視 する為でもある。 癒着がおこると、医療の質や価格の適正な医療プランを選ぼうとする 保険組合会社のインセンテイブがなくなり、医療の質の低下や医療費の膨張がおこる。 第三に、組合保険会社が、加入拒否、割り増し保険料を、被保険者に課してないかをも監 視する。 8.4.3. 医療プランの情報提供 医療監視委員会は、被保険者に対して医療プランの情報を公表する。 これは、被保険 者が、医療の質及び医療費の適正な医療プランを選ぼうとするインセンテイブになる。そ れがひいては医療の質の向上と医療費の抑制につがる。 また、被保険者から受け付けた 医療プランや医療に関するクレーム等を検討し、是正すべき点を医療プラン作成会社及び 組合保険会社へ勧告する。 8.4.4. 医療給付内容と保険料の適正化 医療の進歩、及び物価上昇率等を考慮して、医療給付内容の拡大勧告や保険料変更の勧 告を政府に対して行う。 8.5. 被保険者及び企業の機能の提言 8.5.1. 医療プランの選択権の拡大 被保険者及び事業所は、所属する組合保険会社を、従業員の医療プランに対するニーズ及 び個人のニーズに応じて選択できる。 事業所に選択権があることは、組合保険会社が、 価格が適正で質の良い医療を提供する医療プランと契約を結ぼうとするインセンテイブと なる。 それが、医療プランの質の向上と医療費の抑制に結びつく。 結果として、現行 の日本の保険制度及びクリントン案において、事業所が、所属保険組合(米国では地域保 険購入協同組合)以外の保険組合の医療保険を従業員のニーズに応じて購入できないとい う点が解消できる。 そして保険組合(米国では地域保険購入協同組合)が医療費の抑制 と医療の質の向上に尽力しないという問題点も解決される。 8.6. 第8章のまとめ 以上を総ずると、医療保険制度の将来像としては、保険料及び税金の負担に対する不公 平感を軽減する制度にすることと、医療プラン作成会社に病院と製薬会社を選択する機能 を与え、被保険者及び事業所に保険組合会社を選択する機能を与えることで、医療の質の 向上と医療費の抑制をめざすことを提言する。 具体的には、第一に、保険料に関しては、応能原則(所得に応じた保険料)に基づくが、 長期にわたり疾病リスクの低い人に対しては、一部保険料の割引を行い、保険料負担の不 公平感を軽減する。 第二に、税金に関しては、直接税と消費税の負担のバランスをとる ことで、直接税偏重を是正する。 第三に、市場化にかんしては、まず現行の日本の医療 保険制度では、病院及び製薬会社は、それぞれ競争がないので、医療の質の向上と医療費 を抑制しようとするインセンテイブに欠ける。 結果、過剰診療及び投薬で医療費を膨張 させる一方になっている。 そこで、医療プラン会社が、良質な医療プランを作るため、 質の良い適正な価格の医療を提供する病院及び製薬会社を選別し提携する。選定される為 に、病院と製薬会社は、それぞれ競争をし、 各病院と製薬会社が薬及び医療の質の向上 と医療費(薬代含む)の抑制を目指すのである。 次に、現行の日本の医療保険制度及び クリントン案において、保険組合(米国では医療保険購入協同組合)は、営利を目的とし ていない。 その為に保険料および国民の税金を、より質の良い適正な価格の医療に対し てのみ拠出しようとするインセンテイブに欠ける。 その結果、資金が、営利の組織であ る病院、保険会社、製薬会社へ一方的に流出する。 そこで、被保険者及び事業所に、医 療プランを購入した保険組合(米国では医療保険購入協同組合)を選択する権利を与える ことで、保険組合が、保険料及び国民の税金を良質な医療に対してのみ支払うことになる。 結果として、資金の流出が抑制される。 しかし、市場化を推進できる機能は上記の部分であるが、市場化すべきでない機能があ る。 それは、保険組合会社に、事業所及び被保険者を選択する機能を与えてはいけない のである。 その理由は、保険組合会社に選択権を与えると、低所得者、高齢者、疾病リ スクの高い人々に対し、加入拒否や割り増し保険料を求めることになる。 そうすると、 医療保険という公共性を帯びた保険における主たる目的である、低所得者、高齢者、疾病 リスクの高い人を保護ができなくなる為である。 つまり、非営利の部分として政府の役 割である被保険者の保護及び公正な競争を行う為の規制は行うが、保険組合、医療プラン 会社、病院、製薬会社に、それぞれが選別される機能を保険制度の中で持たすことにより、 より質の良い医療費抑制効果のある医療プランを被保険者に提示することを提言する。 結果として、医療費が削減されることになる。 今後の課題としては、国民の税金が組合 保険につぎ込まれなくなる為に削減されるコストが、市場化を導入していくにあたり、発 生するコストで相殺されるようにするにはいかにすべきかが課題として残っている。 第9章:結論 本論文では、第一に、日本の医療保険制度及び米国のクリントン政権が提示した医療保 険制度がどのような構造になっているのか、また資金は、その構造の中でどのようになが れているのかを述べた。 第二に、資金の流れと、負担の公平性という観点から、日本の 健康保険制度とクリントンの医療改革案の利点、欠点を調べ、その共通点と相違点を比較 した。 その結果、非営利の部分は、最小限に抑え、市場原理を保険制度に導入する事が 有効であると結論づけた。 謝辞 本論文の作成にあたって、放送大学社会と経済専攻助教授坂井素思先生には、テーマ選 定から研究方針の策定に関して、熱心な御指導をいただきました。この場を借りて御礼申 し上げます。 また、本論文の内容に関しては、坂井先生を指導教官として卒業研究にあたられた方々 に忌憚のないご意見を頂きましたことに御礼申し上げます。 さらに、香取英夫氏には、論文のまとめ方に関し助言をいただきました。 最後に、文献収集にあたりご協力いただいた放送大学の図書館の方々に感謝の意を表し て謝辞といたします。 以上 参考文献: [1]二木立「世界一の医療費抑制政策を見直す時期」(けい草書房)Page:224-p232 [2]皆川尚史「アメリカの社会保障」(東京大学出版会、社会保障研究所編) Page:209-262 [3]「社会保障年鑑」(東洋経済新報社、健康保険組合連合会編) Page:4-13 Page37-46 Page:58-82 [4]吉田正敏「社会保険のすべてがわかる本」(総合法令) Page:10-29 Page:50-73 Page:58-156 [5]松山幸弘「アメリカの医療改革」(東洋経済新報社)Page:58-156 [6]小沢慶一「世界週報」 1993.8.17-24 Page:24-25 [7]宮本邦男「エコノミスト」1994.2.1 Page58-61 [8]野口悠紀夫「公共経済学」(日本評論社)Page:27-54 [9]宮島洋「高齢化時代の社会経済学」(岩波書店)Page:234-232 [10]NHKドキュメンタリー「医療保険改革」 [11]「生命保険総論」(生命保険協会) Page:117-119 Page:8-42 [12]佐口卓「医療保険論」(有斐閣) Page:135-166 [13]「比較経済経営社会」(放送大学出版会) Page:35-72 [14]「判例六法」(三省堂、判例六法編集委員会編) Page:1408-1412 [15]本郷富士子「社会保障講座1」(社会保障の思想と理論、社会保障講座編集委員会) Page:217-226 [16]新日本製鐵健康保険組合健保ニュース1997/7 Page:2 |